……第一章:日常……

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「後ろめたい仕事?」 「兼貞と六条は、名門の付き物筋の家柄だから。蛇神憑きの兼貞と、陰陽道の六条――蛇神が出てきたら、喰い殺されるから、人間の合法的な範囲で遺体が残る形で、六条が呪詛で始末しているみたいだね。妖も人間も問わず。呪い返しもしているようだけど」  答えた縲を見て、朝儀が俯いた。 「彼方さん、良い人だと思うんだけどなぁ……」 「良い人?」 「僕の理想っていうか……」 「理想? 何言ってるのか分からない。妖の夏瑪夜明レベルで、人間なら六条彼方は危ないと思うけど」  そんな話をしてから、縲は帰宅した。久方ぶりの友達との会話が楽しかったと感じていたが、そういった思いを妖も抱くという事は、縲は知らなかった。  一人、玲瓏院家の迎えの車に乗り込み、後部座席に背を預ける。 「まぁ――玲瓏院結界を張り直したら、夏瑪夜明も出られなくなる。そこをつけば倒せるとは思うけど」  そう呟きながら、縲は帰宅した。すると車から降りようとした時、紬から連絡があった。 「珍しいね、いつもは目立つからと言って車を呼ばないのに」  大学まで迎えに出かけて、縲は紬に声をかけた。 「縲、聞いて。さっきね、狐火が出たんだ。火朽くんっていう名前なんだけど」 「狐火?」  紬の声に、縲が首を傾げた。 「霊泉学園大の中に?」 「うん。民族学科準備室のそばの小会議室の中全部を埋め尽くすみたいに、ぶわって」  縲がスっと目を細める。 「おかしいね」 「でしょう? 心霊現象なんてあるわけが……」 「――うん。霊泉の構内には、玲瓏院で各所に結界を構築しているから、大学の中で心霊現象や怪奇現象が起こるなんて事は、基本的にはありえないね」 「危険性が高いと感じたら、すぐに俺に連絡をするように」 「うん……だけどさ、縲」 「ん?」 「僕、縲がお祓いとかをしている姿、一度も見た事が無いんだけど」  何も知らない純粋な紬の声に、縲は表情を引きつらせながら窓の外を見た。なんとか笑顔だけは保っている。 「ほ、ほら! 俺は顔が広いから」 「それは、接待で出かけた先のキャバクラ的な意味で?」 「た、確かに俺は本指名はしないから、沢山の夜の蝶の連絡先を知っているけど、それとこれとは話が……」 「まぁ、近いうちに、新南津市全域の、本物の玲瓏院結界を構築し直す予定だから――一斉浄化の時期だからね。そうすれば、弱い妖魔は全て消滅するし、それでも生き残るような存在も、外に出るのは困難になるから、協会総出で、一体ずつ倒す事になるし。それまで、その『火朽くん』という存在が残っているようだったら、本格的に強制除霊すれば良いかな」  今はただでさえ、夏瑪夜明が紬のそばにいるというのに、これ以上の怪異になど遭遇させたくはない。縲はそんな事を考えていたのだった。
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