……第二章:玲瓏院結界……

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 ソファから立ち上がった夏瑪は、縲へと歩み寄った。そしてはだけてしまっている着物の首筋をぺろりと舐める。その刺激だけで、縲は果てそうになった。だが――…… 「無論、玲瓏院結界を解除するまでは、おあずけだ。『命令だ』」  ……――果てる事は叶わない。  それは夏瑪が、縲の体にそういう暗示をかけているからだ。夏瑪に『命令』されてしまえば、死の危険でも無い限り、縲の体は暗示に従う。それは吸血鬼の持つ莫大な力の影響でもあった。体内に混入している夏瑪の血が、縲の体を無理に従わせるのである。元々聖職者である縲に自慰の選択肢は無いが、仮に行ったとしても、夏瑪の許しが無ければ既に果てられない体である。 「私の精を受け入れない限り、縲さんは、達する事は出来無い。それが『全て』だ」  ――命令。  ――全て。  夏瑪が暗示をかける時に好んで用いる言葉である。統制訓練を受けてきたせいで、縲の思考だけは変わらなかったが、肉体には、その暗示の効果は絶大な効果をもたらしている。 「あ……あ……」  夏瑪はひとしきり舐めた後、縲の首筋に噛み付いた。二本の牙が、突き刺さる。その瞬間――痛みではなく、尋常ではない快楽が体を埋め尽くした。縲は、こんな快楽を知らなかった。人生で初めての、性的な接触であるとも言える。 「あああ」  深く牙を突き立てては、少し抜き、そうしてまた深々と夏瑪が噛む。そうされると、その箇所からジンジンと快楽が染み込んでくる。  他者の温もりを知らない縲の清廉な血液の味に、夏瑪は舌づつみを打つ。人生で摂取したどの人間の血液よりも芳醇で濃厚。口角を持ち上げた夏瑪は、再び深々と牙を突き立てると、今度は快楽をより酷くする己の体液を縲の中に流し込んだ。 「いやああ」  縲はむせび泣いた。既に陰茎は限界まで張り詰めている。しかし、果てられない。力が抜けてしまい、体重が一気に手枷にかかった。白い手首には、赤い跡がついている。太ももが震えていた。 「玲瓏院結界を解除して、私を外に出してもらえないかね?」 「……っ」  常人ならば、既に正気を失っているほどの快楽の渦中にあって、縲はボロボロと涙を零しながらも唇を引き結ぶ。それは、出来無い。折角宿敵を閉じ込める事に成功したのだ。目の前にいるその相手を、後は屠るだけだ。なのだから、絶対に解除など出来無い。  そもそも玲瓏院結界を解除すれば、他の妖し達も外に逃げ出してしまう。限定的な解除は可能だが、そうであっても妖しはその隙を見逃さないようにしているはずだった。せめて多くの妖しの排除が終了するまでは、決して解除するわけにはならない――いいや、そうなったとしても、夏瑪夜明を逃がす事など出来はしない。縲はそう考え、夏瑪を睨んだ。  涙で潤んだ瞳が力なく細められたのを見て、夏瑪は悠然と笑う。 「だが、果てたいだろう?」 「……ッ、ん」  声を出したくないと縲は思ったが、自然と口から出てしまう。  その時夏瑪が縲の右胸の突起を吸った。 「あああ!」  するとジンっと強く疼き、その場所が奇妙なほど感じるようになった。強く吸われ、唇で挟まれてチロチロと舐められる度、腰が熔ける。赤くなり尖った縲の乳首を、夏瑪が強めに噛む。 「ひっ!」  左手では縲の左胸の乳輪をなぞり、夏瑪が残忍な瞳をした。口元にだけ笑みが浮かんでいる。
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