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次に縲が目を覚ますと、夏瑪は再びソファに座って、血酒を飲んでいた。長い膝を組み、縲の肢体をまじまじと見ている。
色白の縲の全身には噛み傷がある。跡からは、まだ出血している箇所もある。しかし痛みは無い。全身を気怠さと快楽が襲っている状態だ。
虚ろな目をした縲は、顔を上げて夏瑪を見た。
「そろそろ玲瓏院結界を解除する気分になったかね?」
「それは絶対に……ッ……有り得ない」
ドロドロの顔で縲は夏瑪を睨んだが、迫力は全く無かった。それを眺めながら、小馬鹿にするように夏瑪は鼻で笑う。そして立ち上がると、かけてあったコートと帽子を手に取った。
「正気を失う前に、私に抱かれた方が良い。これは親切心からの忠告だ」
「誰が……っ、は」
「結界を解除してくれるというのならば、こちらにはその用意がある」
外套を着込むと、夏瑪はそのまま扉へと向かった。背後で扉が閉まる音を耳にしながら、縲は顔を歪める。涙が止まらない。全身が狂おしいほどに熱い。舌を噛み切りたいほどの灼熱に襲われているのだが、それは『決して自殺してはならない』という半ば洗脳じみた訓練を受けてきた縲には叶わない。そのまま震えながら、再び縲は意識を喪失した。
――次の双眸を開けた時。
「ん……」
縲は両膝が床についている事に気がついた。虚ろな瞳を上に向ければ、手を拘束していた鎖が緩んでいた。
「っ」
逃げ出す契機だ。それを逃すわけにはいかない。力の入らない体を叱咤して、縲は腕を動かし、関節を操作して手錠から抜け出した。するとガクリと体が床に倒れた。支えるものが無くなり、冷たい床に頬を預けて、必死に体にこもる熱を逃そうと試みる。
早く、ここから逃げなければと、そればかりを考える。
体がおかしい。
縲は必死で体を起こし、乱れて床に散らばっていた和服を羽織った。
耳を澄ませば、足音が響いてくる。熱い体を制止し、必死に理性で人数を確認する。誰かが二人、階段を降りてくる気配がする。ここは、一体どこなのか。気配を探るが、あちらも押し殺しているのが分かる。縲は、その気配に、夏瑪では無いようだと判断を下した。見知った気配を感じたからである。
必死で立ち上がり、縲は扉を見た。そして手をかける。
「縲!」
扉を開けると、そこには縲が予想した通り、藍円寺朝儀が立っていた。古くからの同僚であり友人である見慣れた朝儀を視界に捉えた瞬間、縲の張り詰めていた気力が緩んだ。思わずよろけて倒れ込みそうになる。すると支えようと朝儀が手を伸ばした。
「やめ……触らないで、あ、ああああ」
「縲?」
朝儀に触れられた瞬間、再び縲の全身を灼熱が襲った。怪訝そうな朝儀に対し、涙をこぼしながら縲が告げる。
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