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仮に旧源菌を確認できたならば、その時点で、この行為は、吸血鬼に対する戦闘行為では無くなる。未知の旧源菌という存在に冒された死体の処理と、名前が変わるのだ。あるいは、病者への屠殺処置となる。病者は生者だ。つまり、俺達は人殺しだという事になる。
この観念――自分達が人殺しでは無いかと、人間を恐怖させる事を目的として、旧源菌は、敢えて脳機能を残し、人と類似した言動を肉体に取らせているのでは無いか。
この一連の考察を俺達の機関に齎したのは、吸血鬼研究の第一人者である、ブラックベリー博士であると言う。
確認する事が出来ないにも関わらず、俺達人間も、この系統が存在すると、認める以外の術がない。証明する事が出来なくとも、存在する事を、本能的に理解している。そして、目の前には、現にこうして吸血鬼が存在している。
「オロール卿は、何処だ?」
痙攣している吸血鬼に、俺は問いかけた。これが、ここ連日の拷問の主題である。初日は、指の皮膚を、一本ずつ剥いた。二日目は、爪を引き抜いた。そして三日目の本日が、第一関節の切断だ。明日は、第二関節、明後日は手の指の全てを切り落とす。では、五日目は? 足に移る。その後は? 顔の部位だ。既に死している吸血鬼は――そのような拷問にかけてもなお、死なない。このままならば、この少女姿の吸血鬼に待ち受けるのは、肉塊と等しい姿のままでの、永遠の生だ。
吸血鬼を殺害する方法は、唯一だ。人間の血液を摂取させない事である。
しかし、この少女姿の吸血鬼の首筋には、輸血用の血液パックが突き刺さっている。傷つける手法は、古より伝わる特別な銀など用いるまでもなく、こうして対人時と同一でも問題は無い。問題は、彼らが、『死なない事』及び『人間を食料とする事』である。
「Il est au Japon」
震える唇でそう紡ぐと、吸血鬼は意識を落としたようだった。
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