……第二章:玲瓏院結界……

8/10
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「すぐに絢樫Cafeに行ってみます」 「享夜がおるそうだ。朝儀も伴うと良い」 「ご配慮有難うございます……」  その後縲は、シャワーを浴びる事にした。ベタベタの体が気持ち悪い。鏡を見れば、全身に噛み傷がある。酷い痕だ。  そして普段の和服ではなく、内閣情報調査室庶務零課時代に着用していた、分厚く黒い指定着を身に纏う。袖を通すのは久しぶりだった。そうして準備をしていると、同様の格好をした朝儀が部屋に入ってきた。時刻は十五時を回った所である。 「絢樫Cafeに行くんでしょう?」 「うん……っ……ああ、もう」 「縲?」 「体が熱くて思考が蒙昧とするんだ」 「享夜には、そういった様子はないんだけどなぁ」 「それは――」  体を重ねているからだろう、と、縲は言いかけてやめた。刻印の知識を振り返る限り、体を重ねるか、そうでなくとも対象の吸血鬼のそばにいって、熱を緩和してもらう以外の術はない。直接の性交渉がなくとも、吸血鬼側は刻印経由で人間の気を抜けるらしいというのは、仏国時代に得た知識だ。 「……」  しかし本来、吸血鬼は人間を気遣う存在ではない。藍円寺享夜が平気な理由が、大切にされているからなのか、それともローラという吸血鬼が善良なのか、そこが問題でもある。縲は善良な吸血鬼が存在するとは思わないが、せめて知識提供をしてくれる存在である事を祈った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!