……第二章:玲瓏院結界……

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 朝儀と縲が絢樫Cafeに到着したのは、十六時を回った頃の事だった。既に周囲は暗い。雪が積もる中、クローズの看板を見たが、気にせず二人は扉の前に立つ。先に手をかけたのは、朝儀だった。 「享夜!」  中に入るなり、朝儀が弟の享夜に声をかけた。縲は熱い吐息を押し殺しながら、それに続く。すると享夜と目が合った。 「朝儀……それに、縲さんも――っ、無事だったのか!」  座っていた享夜が立ち上がる。それを見ながら、縲は小さく頷いた。同時に、初夏の頃は、『怪異』として紬が恐れていたものの、ここの所は友人だと公言している火朽の姿を視界に止めた。他には、高校生くらいに見える妖し――砂鳥と、享夜のすぐそばにいるローラの姿がある。迷わず縲は、銀の銃弾が入っている対吸血鬼用の銃を抜いた。 「刻印の事で話があるんだよ!」  朝儀も同様で、黒光りがする拳銃を構えている。  火朽と砂鳥がカウンターの奥に退避する事には構わず、縲はローラに照準を合わせた。 「ローラ、下がってくれ。二人共、ローラは決して危険な存在じゃ……というか、銃刀法はどうした?」  享夜が困惑した様子で声を出した。片手でローラを庇っている。  弱い人間が吸血鬼を庇う姿というのは、ある種滑稽だと縲は思う。吸血鬼は決して、人間に庇われるような弱者ではないからだ。 「享夜、あのね、縲が刻印されちゃったんだけど、熱のせいで体が上手く制御できないらしいから――回答によっては、うっかり発砲しちゃうかもしれないけど、それはそれとして、どうにかする方法を知らないか、ローラという吸血鬼と、刻印経験者の享夜に話を早急に聞きたいんだよ」  朝儀がつらつらと伝えた。それを聞きながら、縲は熱い吐息を抑えつつ、苦い顔をする。 「朝儀、っ、悠長に聞いている時間なんか……ッ、ッ」 「縲、大丈夫?」  縲の言葉に、気遣うように朝儀が一瞬だけ視線を向けた。しかし銃口は、享夜達を捉えたままである。 「大丈夫じゃないから、今ここに来ているんだよ」  苛立たしげに縲が答えた。それを聞くと享夜が目を見開く。 「刻印……」  それから享夜は、ローラを見た。 「ローラ、何か、縲さんを楽にする方法を知らないか?」  ローラは享夜の背後に隠れている。白々しいと思いながら、縲は目を細めた。本家の簡易結界から離れたせいなのか、どんどん体が熱くなっていく。思考が上手く回らない。 「刻印されたら、その相手と体を繋ぐしか、楽になる方法は無い」  そんな事は分かっているのだと、縲は叫びたくなった。しかし口を開けば、それだけで嬌声が溢れそうになる。ぐっと堪えていると、朝儀が言った。 「――そうしたら、縲はエクソシストだから、力が使えなくなっちゃうんだよ」 「いいや。エクソシストの場合であっても、愛が伴うSEXであれば、力は失われない」  ごく当然であるように、ローラが言う。猫のような瞳が煌めいて見えた。縲はその言葉と表情に思わず、舌打ちしそうになる。その一瞬だけ、快楽を塗りつぶすような怒りが沸いた。 「愛せるはずがないだろう!? オロール卿は俺の敵だ。彼さえいなければ、紗衣だって――」  そこまで口にして、縲は唇を噛んだ。紗衣の死は、直接的という意味では、夏瑪夜明のせいではない。夏瑪夜明が戸籍を提供した吸血鬼の仕業だ。しかし間接的には、夏瑪夜明こそが加害者であり、そもそも縲は、夏瑪を追いかけてこの国に来たのだ。
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