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朝儀と縲が絢樫Cafeに到着したのは、十六時を回った頃の事だった。既に周囲は暗い。雪が積もる中、クローズの看板を見たが、気にせず二人は扉の前に立つ。先に手をかけたのは、朝儀だった。
「享夜!」
中に入るなり、朝儀が弟の享夜に声をかけた。縲は熱い吐息を押し殺しながら、それに続く。すると享夜と目が合った。
「朝儀……それに、縲さんも――っ、無事だったのか!」
座っていた享夜が立ち上がる。それを見ながら、縲は小さく頷いた。同時に、初夏の頃は、『怪異』として紬が恐れていたものの、ここの所は友人だと公言している火朽の姿を視界に止めた。他には、高校生くらいに見える妖し――砂鳥と、享夜のすぐそばにいるローラの姿がある。迷わず縲は、銀の銃弾が入っている対吸血鬼用の銃を抜いた。
「刻印の事で話があるんだよ!」
朝儀も同様で、黒光りがする拳銃を構えている。
火朽と砂鳥がカウンターの奥に退避する事には構わず、縲はローラに照準を合わせた。
「ローラ、下がってくれ。二人共、ローラは決して危険な存在じゃ……というか、銃刀法はどうした?」
享夜が困惑した様子で声を出した。片手でローラを庇っている。
弱い人間が吸血鬼を庇う姿というのは、ある種滑稽だと縲は思う。吸血鬼は決して、人間に庇われるような弱者ではないからだ。
「享夜、あのね、縲が刻印されちゃったんだけど、熱のせいで体が上手く制御できないらしいから――回答によっては、うっかり発砲しちゃうかもしれないけど、それはそれとして、どうにかする方法を知らないか、ローラという吸血鬼と、刻印経験者の享夜に話を早急に聞きたいんだよ」
朝儀がつらつらと伝えた。それを聞きながら、縲は熱い吐息を抑えつつ、苦い顔をする。
「朝儀、っ、悠長に聞いている時間なんか……ッ、ッ」
「縲、大丈夫?」
縲の言葉に、気遣うように朝儀が一瞬だけ視線を向けた。しかし銃口は、享夜達を捉えたままである。
「大丈夫じゃないから、今ここに来ているんだよ」
苛立たしげに縲が答えた。それを聞くと享夜が目を見開く。
「刻印……」
それから享夜は、ローラを見た。
「ローラ、何か、縲さんを楽にする方法を知らないか?」
ローラは享夜の背後に隠れている。白々しいと思いながら、縲は目を細めた。本家の簡易結界から離れたせいなのか、どんどん体が熱くなっていく。思考が上手く回らない。
「刻印されたら、その相手と体を繋ぐしか、楽になる方法は無い」
そんな事は分かっているのだと、縲は叫びたくなった。しかし口を開けば、それだけで嬌声が溢れそうになる。ぐっと堪えていると、朝儀が言った。
「――そうしたら、縲はエクソシストだから、力が使えなくなっちゃうんだよ」
「いいや。エクソシストの場合であっても、愛が伴うSEXであれば、力は失われない」
ごく当然であるように、ローラが言う。猫のような瞳が煌めいて見えた。縲はその言葉と表情に思わず、舌打ちしそうになる。その一瞬だけ、快楽を塗りつぶすような怒りが沸いた。
「愛せるはずがないだろう!? オロール卿は俺の敵だ。彼さえいなければ、紗衣だって――」
そこまで口にして、縲は唇を噛んだ。紗衣の死は、直接的という意味では、夏瑪夜明のせいではない。夏瑪夜明が戸籍を提供した吸血鬼の仕業だ。しかし間接的には、夏瑪夜明こそが加害者であり、そもそも縲は、夏瑪を追いかけてこの国に来たのだ。
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