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そして出会った大切な相手、それが紗衣だ。
亡くなった妻を思えば、悔しさと苦しさが溢れてくる。
瞬きをすれば、彼女の笑顔がよぎるのだ。
そんな思考を振り払うように一度頭を振ってから、縲は続ける。
「とにかく、他の方法を」
拳銃を構え直し、最悪の場合、享夜ごとローラを撃とうと決めていた。吸血鬼は存在が害悪だ。それを庇い立てするのであれば、その人間を容赦する事も出来無い。あくまでもまだ撃っていないのは、情報提供を求めているからに過ぎなかった。
「俺と藍円寺を殺っても何も解決しないだろう? ただ、親切心から教えるならば、夏瑪を殺れば、もうそれこそ、熱から逃れる術は消える。迂闊に動かない方がいい」
ローラが透き通るような静かな声で言った。だがそれが、縲の心を逆撫でした。
「何も知らないのなら、用はないよ」
「縲!」
朝儀が焦るような声を出した。
「っ」
しかし体の熱が辛すぎて、なるべく早く決着をつけなければならないと判断していた縲は、二発目を撃つ。
「ローラ!」
「藍円寺……っ、馬鹿!」
一発目は、ローラを庇うように前に出た享夜の肩を掠めた。威嚇射撃の意味を込めていた為、少し照準をずらしていたのだが、享夜が動揺のあまりローラを庇う形で前に出たので、銃弾が触れた。尤も、二発目は正確にローラを狙っていた。
直後、その場に膨大な力が溢れかえった。
「!」
縲は交わす余裕が無かった。カランと銃弾が床に落下した音を聞いた時には、全身に妖力を叩きつけられていた。妖力というのは、怪異が潜在的に持つ、強い力だ。衝撃で体が軋んだ直後、縲は意識を手放した。
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