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その後は、様々な事があった。
俺は妻と出会い、十三歳にして、人工授精で双子を儲けた。
絆と紬だ。
直接的な性行為を行ったわけでは無かったから、俺から力が消える事は無かった。
俺と妻、他には藍円寺朝儀が所属していた機関において、俺達は、『夏瑪夜明』を名乗る吸血鬼を”多数”退治した。が、本物のオロール卿に行き着く事は叶わず、志を半ばにして、俺の妻である玲瓏院紗衣は喰い殺され、それは後に朝儀の妻の望美も同様となった。
玲瓏院家から俺に連絡があったのは、紗衣の葬儀が終わる直前の事だった。
「帰って参れ」
それは、紗衣の父である、玲瓏院統真(レイロウイントウシン)の言葉だった。
俺には、拒否権は存在しない。
紗衣と初めて出会った時の事を思い出す。
――ねぇ、精子を売ってくれない?
穏やかな声が蘇った。
「ねぇ、精子を売ってくれない?」
初任日に、俺はそう声をかけられた。てっきり、仏での噂を、その日本人女性も耳にしているのだろうと考えた。聖職者(エクソシスト)である俺は、一度でも姦淫の罪を犯したならば、永劫、この身に宿る力を使う事が出来なくなる。大和撫子は過去の幻想だという言説が誠であり、現代の日本人女性が獣に成り下がった事を、俺は嘆こうとした。だが、彼女は言った。
「そうすれば、貴方の人生の借金の半分は返せるもの。人生は謳歌しないと勿体無い!」
……その言葉を聴いて、俺は初めて彼女の顔を正面から見た。
白い肌に、そばかすの痕が残る、俺よりも十歳年上の女性だった。
当時、俺は十三歳だった。
俺には莫大な借金があった。祖母が残したもの、両親がそれを返済しきれなかったもの。
「知ってるの、私。ルイくんは、大叔父様達の借金が終わるまでの間、DGSEで働かなければならないんでしょう? 大叔父様が、精子提供をしたと聞いたの。つまりルイくんと私は、またいとこ」
「それが、何?」
その時の俺は、目を細めて、無表情で返答した自信がある。
「DGESがね、私とルイくんの子供を作るならば、これからは、ルイくんを日本国籍にしても良いと話していたんだって!」
「――体の良い厄介払いか」
ポツリと、俺は返した記憶がある。移民政策への反対という世論が巻き起こって久しかった。いくら『能力』があろうとも、国策に合致しない人間など、存在価値は無いのだろう。別段俺は、驚かなかった。そもそもが、大別するならば基督教徒がしめる仏において、異教徒の血が混じっているにも関わらず、『敬虔』だとされる自身の方に違和すらあったからだ。
「……そんな事は無いと思うよ?」
「それで? この国で、俺を引き受けて貰う条件は?」
淡々と俺が聞くと、彼女は両頬を持ち上げた。
「まずは、私のお婿さんになってもらいます! いやぁ、玲瓏院家は今ね、私しか後継者がいなくて困っちゃってるんだ」
「婿? この国の戸籍制度について、俺は何一つ詳しくは無い。好きにして。後は?」
「……、……子供を、作ります」
「へぇ」
俺が適当に頷くと、彼女は笑みを強ばらせた。東洋人は若く見えると耳にした事もあるが、俺はそうは思わない。149cmの俺の身長と、彼女の身長は、ほぼ同じだ。しかしながら、肌ツヤを見る限り、俺は子供と表するに相応しいが、彼女は老化している。
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