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「俺に、おばさんを抱けっていうの?」
「私まだ、二十三歳なんですけど」
「俺は十三歳だけど?」
「……ええと、人工授精します」
「生殖可能だけど――とすると、能力を遺伝させつつ、俺にも力を残したいんでしょう?」
「え、ええ、まぁ」
「採取してくるから、精液採取キットを」
慣れていたので俺が伝えると、彼女は呆気にとられたように目を丸くした。それから赤面した彼女を見て、その時になって俺は、初めて気がついたのである。見た事こそあったが、一応同僚である彼女の名前すら知らない事に。
「名前は?」
「紗衣(サイ)です!」
「俺は、ルイ・ミシェーレと言うんだ」
「知ってます! お婿さんになってもらった場合には、『縲(ルイ)』くんってどうかな!?」
「どうかなと言われても……」
掌に漢字を書いている紗衣を見て、この日の俺は、多分馬鹿にしていたのだった気がする。彼女というよりも、俺は女性を見下していた。卵子を売り払った祖母と彼女が重なったのだ。記憶に無い母だけが、俺の中で象徴的な女性だった。
――回想を終えた俺は、双子の我が子を腕に抱きながら、嘆息した。
借金を肩代わりしてくれていた紗衣が亡くなった。
今後、肩代わりをしてくれるのは、玲瓏院家のそれこそ統真氏となる。
戸籍的には、紗衣の主人として意外無関係だが、俺の大伯父に当たる人物だ。
その命令は、絶対である。
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