……本編……

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「荷が重いって、どういう……?」 「出るホテルみたいなのよね……」 「はぁ……でも、俺も視えるだけなので……場所は?」 「陸の孤島」 「え?」 「砕果島(さいはてとう)という小さい島で、住人は今はゼロで……朽ちた村と、嘗てのリゾート開発で建設された廃ホテルがあるだけらしいの。船で行く事になるわ」  それでは紬を連れて行くというのは絶対に無理だ。そもそも、これ以上家族に迷惑をかけるわけにもいかないだろう……。 「KIZUNAだけが頼りなのよ! お願い、一緒に頑張りましょう! これも大切なお仕事よ!」  相坂さんに対して、俺は何も返す事が出来なかった。  ――映画の打ち合わせの日が訪れた。俺は台本も頭に入れたが、それよりも心霊特番のロケについてが気になっていた。一人一人紹介され、挨拶をしていく中で、俺は必死に天使のような笑みを浮かべつつ、内心では苛立っていた。別に共演者の女性陣が、みんな兼貞に釘付けだからではない。決して違う。 「兼貞遥斗です。若輩者ですが、よろしくお願いします」  兼貞が挨拶をした。みんなキラキラした瞳を向けている。確かに悔しいが、奴は格好良い。それは認めよう。しかし兼貞の直前に挨拶をした俺への視線とは、周囲の見方が全然違う気がしてイラッとする。  その日は挨拶が終わってからは、簡単な日程の確認をして終了となった。俺は真面目に聞きつつも、兼貞の事が気になっていた。一体、奴本人はどういう心境なのだろうか。多少は罪悪感がある事を祈る。  兼貞と目が合ったのは、顔合わせが終了した時の事だった。目が合うと、奴は、スっと目を細めてから、静かに微笑した。って、何を笑っていやがる。何も面白くない。俺には不愉快な出来事続きだ。表情筋を叱咤して微笑を返した俺は偉いだろう。  ――ロケに旅立つ事になったのは、その二週間後、秋の初めの事である。  俺はリビングに荷物を広げて準備をしていた。するとそこへ、紬がやって来た。 「あれ? どこか行くの?」 「ああ。急なロケが入ってな」  急というほどでもないが、俺の中では青天の霹靂と言える。 「良かったじゃん」 「……夏の特番の評判が、思ったより良かったらしくてな……また、心霊番組のロケだ。放送は深夜枠及び動画、Web放送」  答えながら俺は、慎重に服を検討した。なにせ兼貞と同じ空間で過ごすのだ。絶対に負けてなるものか。 「服は用意してもらえないの?」 「――いいや。滞在中の私服を検討しているんだ」 「適当じゃダメなの?」 「ダメなんだ。今回だけは絶対にダメだ」  俺はオカルト路線で兼貞に勝ちたいわけではないのである。存在感で勝たなければ……!
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