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「怖い顔してるのも可愛いな」
「おい。巫山戯るな!」
「――俺にも、絆の力は美味しそうに映るんだよな」
「は?」
「気を吸い取る術というものもある」
「何が言いたい?」
俺は兼貞に詰め寄ろうとした。
――その瞬間だった。
「ッ!」
何かが俺の左足首を掴んだ。
見れば俺の側の寝台の下から、女の霊が這い出てきた所で、ギリギリと俺の足首を掴んでいる。恐怖というより痛みと衝撃で、俺はその場で体制を崩した。
「うわ!」
慌てて手を絨毯の上につく。転んだ俺を、寝台に座って膝を組みながら、兼貞は余裕たっぷりの笑顔で見ている。
「本当にそっちで寝るのか?」
「……っ、見てないで、視えてるんなら助けろ!」
兼貞はじっと俺を見た後、静かに立ち上がった。そして動けない俺の前でしゃがむと、指先で俺の顎を持ち上げた。
「ちょっと気を味見させてくれるって言うんなら、助けようかな」
「は!? それは俺にどうしろと言っているんだ!?」
「簡単なのは、キス」
「頭がおかしいんじゃないのか!? っ、痛」
足首を強く握って引っ張っている女の霊は、俺を寝台の下に引きずり込もうとしているらしかった。力が強い。このように実体を持つ存在相手では、俺の唱えるお経などほとんど効果はなさない。身につけている数珠を投げつけたら解放されるだろうが、寝台下に引きずり込まれないよう両手を必死に絨毯についている現状では、それが出来無い。
「このままじゃ、そいつに取り込まれるぞ?」
「だから助けろって言ってるだろうが!」
「俺のベッドで一緒に寝て、気を味見させてくれるなら良いよ」
「なんだよそれは!」
「最初に見た時から、俺、絆の事気に入ってたんだよね」
「は? っ、ああ、もう、分かったから助けてくれ!」
俺は折れる事にした。確かにこのままでは埒が明かない。本当に不服ではあるが、生命には変えられないだろう。俺の言葉を聞くと、兼貞が呪符を取り出した。
「急急如律令」
どこか笑みすら含んだ声音を、兼貞が放った。するとその瞬間、俺の体が解放された。必死で吐息しながら、俺は絨毯を前に進む。するとポンポンと兼貞が俺の頭を叩くように撫でた。
「約束、な。こっち来いよ」
「……なんでだよ」
理不尽だと思った。兼貞のせいで例えば紬だって手伝いに行ったし享夜は大変な作業をするというのに、どうしてちょっと助けてもらったからといって、俺は兼貞に気とやらを提供しなければならないというのだ。
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