……本編……

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 家賃は少々高いのだが……た、たまたま、本当に偶然、兼貞のマンションの、隣の部屋が空いていると聞いて、俺は、そこに引っ越す事にした。兼貞は同棲しないかなんて馬鹿な事を言ってきたが、俺は、俺の稼ぎで一人暮らしをすると昔から決めていたので断った。まぁ、合鍵は貰ったままだし、既に俺が貰っている部屋の鍵も、一つ兼貞に渡しているから、実質行き来は自由だけどな……。 「寂しいけど、兼貞さんと一緒なら、大丈夫そう」 「――俺は、一人でもやっていける」 「そんなこと言って――」 「ただ……兼貞がそばにいると、もっと頑張れるというだけだ。それだけだ」  俺が断言すると、紬が吐息に笑みをのせた。 「昔は、そのポジション、僕だったのになぁ。たまには恋人だけじゃなく、弟も顧みてよ?」 「わ、分かってる。そっくりそのままお前に返す」 「そうだ、聞いてよ。今日もね、火朽くんに聞いたんだけどさ、ローラさんって覚えてる?」 「ああ、亨夜の恋人だろ? それが?」 「映画の脚本を書いた黒苺先生って、ローラさんの筆名なんだって」 「えっ!? 人前に出ない事で有名な、あ、あの黒苺先生が!?」
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