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その後も俺は兼貞の戯言に付き合い続けた。酒が回るに連れて兼貞は露骨になってきた。
「お願い、絆! キスさせて」
「巫山戯るな!」
「絆がいないと、俺の体はもうダメなんだ!」
「語弊のある言い方をするな!」
あの兼貞が、こんな中身だと知ったら、世間の女性ファンは壊滅すると俺は思う。いっそそうなれば良いのに。ただし俺に絡むのは御免こうむる。
「まずい酔ってきた……」
「全くだ。そろそろ帰ろう」
俺が言うと、兼貞がじっと俺を見た。
「タクシー呼ぼう」
「そうか。じゃあ、俺は家の車を呼ぶ」
「待って。俺、立てそうにもないかも」
「は?」
「絆、送って」
冗談がきつい。なんで俺が兼貞を送らなければならないというのか……!
「……」
しかしここに置いて帰って、もしもコイツがこの後失態を犯して、撮られて、そうなったら――心霊番組とはいえ、貴重な仕事が潰れてしまうかも知れない……。
「分かった、俺の家の車で――」
「んー? いやもうタクシー呼んじゃった。タクシーで送ってくれ」
「……酔っぱらいが」
俺は舌打ちしそうになったが、天使らしくないので堪えた。兼貞の前では最早猫をかぶる必要はないのだが、俺は顔をしかめるだけにした。我ながら偉いと思う。
兼貞は使い物にならないので、会計は俺が済ませた。尤も、兼貞が奢ると言って聞かなかった為、伝票と処理だけ俺がし、ご馳走になってしまったが。酔っぱらいの介抱もするのだから、少しくらい良いだろう。
タクシーに二人で乗り込み、走り出す中で、俺は溜息をついた。運転手さんは幸いこちらを見ていない。兼貞は俺の肩を機嫌良く抱いている。触るなという話だ。
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