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その後到着したのは、都内の高級マンションだった。
……俺一人の稼ぎだったら、絶対家賃が厳しいと思える家だ。実家の援助があれば余裕で住めるようにも思うが、それは俺のプライドが許さない。俺は一人暮らしをする時は、己の稼ぎで頑張りたいのだ。
兼貞を抱えてエントランスホールに入る。幸い酔っ払いつつも兼貞はカードキーをぶらぶらとぶら下げていたので、それを用いて、兼貞の部屋を目指した。コンシェルジュさんは存在しない作りのようだ。
さてそのマンションの最上階――そこに兼貞の家があった。
「ついたぞ!」
「んー、水」
兼貞の靴を脱がせて巨大なソファまで支えていくと、水を要求された。全く、なんで俺がこんなことを! そうは思いつつ、哀れなので、俺はキッチンへと向かった。グラスは直ぐに見つかったので、冷蔵庫を開ける。ミネラルウォーターのペットボトルがあったので、そこから冷たい水を注いだ。
「ほら!」
リビングに引き返してグラスを渡すと、兼貞がそれを受け取った。だが、飲むでもなくサイドテーブルにグラスを置く。そして、再度手を伸ばすと、俺の手首を握った。
「なんだよ?」
「――絆って、お馬鹿さんだな」
「は?」
ここまでしてやっている俺に、なんという言い草だ。俺が睨んだ時――兼貞が俺の手を強く引いた。
「うわ」
不意な事だった為、よろけた俺は、そのまま兼貞に抱きとめられた。
「酔いすぎだろ!」
「残念だけど、あの程度じゃ俺は酔わないなぁ。絆をここに呼ぶ口実」
「な!?」
「キスさせて」
「巫山戯るな!」
慌てて抵抗しようとした俺を、兼貞が強く抱きしめた。呆気にとられて唇を開けると、その瞬間、チュっと触れるだけのキスをされ、俺は硬直した。思わず目を見開く。
「その顔、良いな。真っ赤」
「なっ、よ、酔ってるだけだ!」
「そうなの?」
「と、とにかく離せ、馬鹿!」
「食べさせてくれるなら良いよ」
「食べるって……」
「絆の気が欲しいんだ」
兼貞はそう言うと、俺の顔に唇を近づけた。本当に忌々しいほどに整っている顔で、じっと俺を見ている。あんまりにもその視線が力強くて、俺は一瞬動けなくなった。するとその隙を狙うかのように、兼貞が俺に唇を重ねてきた。
「ン」
先程とは異なる、深い口付けが降ってきた。思わず薄らと俺が唇を開けると、兼貞の舌が入り込んでくる。俺の舌を追い詰めると、絡めとり、強く吸った。そうされた途端、俺の体の奥がジンとした。な、なんだこれは……!
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