……本編……

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 ――本格的に夏が来た。  今日は、もうすぐオープンする、新南津市ハイランドというテーマパークのポスターの撮影だった。専属モデルをしている雑誌以外の撮影は、久しぶりだ。その他は……考えたくもないが、夏の心霊特番のロケばっかりである。  地元での撮影を現地で終えて、俺はその後、スタジオへと向かう事になった。心霊特番は、テレビで放送されるものもあるが、大半はWebで配信される。しかしこれも貴重な下積みに違いない。違いないよな……?  そんな中で、本日は貴重な、テレビで放送される番組の収録である。先日行ったロケが放送される番組だ。俺は久しぶりにテレビ局に足を踏み入れた。これから共演者の所に挨拶に行かなければならない。相坂さんの一歩後ろを進みながら、俺は気づかれないように溜息を押し殺した。 「あ」  その時、間抜けな声がした。何だろうかと、俺は顔を上げる。すると前方から歩いてきた青年が俺を見て、サングラスをずらした所だった。……昨日、紬が着ていたのと同じ私服を着用しているが、さすがにその服が載っていた雑誌の読者モデル上がりだけあって堂に入っている……――と、瞬時に考えつつ、俺は天使のような微笑を心がけて立ち止まった。  内心は煮えくり返りそうだったわけであるが。  前方からやって来たのは、兼貞遥斗(かねさだはると)兼貞遥斗という、俺と同世代の俳優だった。まずムカつくのは、俺よりも身長が13cmも高い部分である。186cm! 奴は俺のライバル雑誌の読者モデルだったのだが、その雑誌のコンテストでグランプリを取り、俳優デビューした強者である。さすがに顔面が整っている。そこも苛立ちポイントだ。  しかしそんな思いは微塵も見せずに、俺は軽く会釈し道を譲った。  現在若手No.1の実力者は、紛れもなくコイツなのである。  俺とデビューは変わらないというか、モデル歴で言うならば、俺の方が長いのだが、俳優としての活動では、俺は今の所負けている。事務所の力が、奴の方が大きいというのもあるだろうが、春にはドラマの準主役ポジションを見事に勤め上げた兼貞を、俺は己の好敵手として定めている。  別段これは、俺一人の考えではないだろう。兼貞とは、同世代の俳優やイケメン芸人は共演NGとなっているのだが(先方の事務所の意向だ)――兼貞の出演が決定した場合、必ず俺はオーディションで落とされるか、先に決まっていても下ろされる。  向こうも一応、俺をライバル扱いはしているようなのだ(兼貞本人か、事務所かは知らないが)。  だが、それだけだったならば、俺も、己のちっぽけな自尊心と嫉妬について考えるだろう。それ以外の理由で、俺はコイツが大嫌いだ。コイツはなんと、プロフィールに『霊感があります♪』と書いているのである。俺がやりたくもないのにオカルト路線を歩まされているのとは逆に、兼貞は霊感をネタにしているのだ。  しかし俺から見ると、コイツに霊能力は無い。視えているのかも怪しい。 「珍しいな、KIZUNA」  朗らかな笑顔で、兼貞が俺に言った。コイツの、俺に対して馴れ馴れしい所も、俺は嫌いだ。というか、珍しいって事実だが失礼だろうが! 「ご無沙汰してます、兼貞さん」  それでも俺は天使のような笑みを心がけた。
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