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「今日は何の撮影?」
「――心霊特番の撮影です」
「俺は夏公開の映画の宣伝。で、俺も今から他局だけど、バラエティのロケで心霊スポットに行ってくるんだ。あー、もうちょっと早ければなぁ、たまには食事でもと思うんだけど」
兼貞はさりげなく、映画の宣伝という自慢を混ぜてきた。俺はこめかみに青筋が浮かびそうになったが、心が狭いなど天使らしくないので、笑顔で交わす。絶対にコイツと食事になんか行きたくない。プライベートで付き合う気など無い。
「じゃ、また」
俺の隣を兼貞が通り過ぎていく。さっさと歩き去れ! 俺は奴の後ろ姿を軽く睨みながら見送った。全く。ちょっと売れてるからって調子に乗るなというのだ。すぐに追い越してやる。
その後、俺は番組の収録へと向かった。
心霊特番の収録現場というのは、意外と浮遊霊が多い。俺は見て見ぬ振りをしながら乗り切り、事務所へと顔を出す事にした。実は俺は、秋には連ドラの出演が決まっている。通行人Cという名前の無い役であるが、俺にとっては貴重である。台本を何度も確認しながら、俺は撮影を行ったものだ。
「KIZUNA! 大変なんだ」
「はい?」
事務所の中に入ると早々に、社長が顔を出した。何事かと思っていると、ハンドタオルで汗を拭きながら、禿頭の社長が俺を見た。
「来年公開の映画の主演が決まった」
「へ?」
突然の話に、俺は虚を突かれた。
「W主演で、その件でもう一人の主演の事務所の社長が来ているんだ」
「え、え? 俺が主演ですか? もう一人は誰ですか?」
「――兼貞遥斗くんだよ」
「は?」
俺は天使にあるまじきことに、ポカンとしてしまった。呆気にとられるしかない。なにせこれまでずっと共演NGの筆頭だったのだから。
「オーディションも何もしてないですが……え、えっと……」
「制作会社やスポンサーの希望もあるそうでね、何より兼貞くんの事務所も、どうしてもKIZUNAが良いと話していて――今、あちらの社長がいらしてるんだ」
「えっ」
狼狽えるなという方が無理だった。だがそのまま、俺は応接室へと促された。するとそこには、緑色の扇子を片手にした、兼貞の事務所の社長が座っていた。
「これはこれは、KIZUNAくん! ご活躍はかねがね!」
「……KIZUNAです。よろしくお願いします……」
おずおずと促されて、俺はソファに座った。するとバシンと扇子を閉じて、来客者が言った。
「『呪鏡屋敷』にはノータッチでお願いしますね」
「へ?」
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