167人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんなに人気の、若手ナンバーワン的な存在と一緒に出られるなんて、すごいじゃん!」
それは事実であるが、本当に癇に障る。
「……あのな、俺も一応、若手の中では、そこそこの成績を出している。本来、俺とアイツが共演する事などありえない」
「そうなの?」
「そうなんだ。俺の事務所は別にNGを出してはいないが、特に兼貞の事務所はその辺にもうるさい。兼貞が出る番組には、アイツと同年代の俳優や顔がいい男芸人は出ない」
「へぇ」
「それが――今回は、先方が、どうしても俺にと言ってきたんだ」
「……それ、実力が認められた、とか?」
紬が首を捻っている。俺はそれを見て目を細めた。
そうであったならば、どんなに良かった事か。首を振るしかない。
「一応、制作会社やスポンサーの希望だとは言われたが、建前だろうな。何せ、その話を持ってきた時に、向こうの事務所の社長がわざわざやってきて、俺に、『呪鏡屋敷にはノータッチでお願いしますね』と言っていたからな……」
俺が言うと、紬が何度か頷いた。
「つまり、変な揉め事を起こして、絆の仕事が潰れないようにっていう配慮かぁ」
「ああ……」
「まぁきっと、享夜さんがどうにかしてくれるよ。だって、絆と違って、オカルトが売りっていうか、それが本職の人だしね」
その言葉に、俺は頷くしかなかった。享夜には本当に申し訳ないが、頼る以外の選択肢が無い。こうして夜が更けていった。
最初のコメントを投稿しよう!