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「3」
初めに口を開いたのは、小柄な女の人だった。
「6」
「4」
「…10」
その場に、かすかにどよめきがおきる。
「10」と言った一見サラリーマン風の男は、満足げにニヤリと笑う。
「お前はどうなんだ?」
全員が発言し終えると、サラリーマン風の男は僕に言葉を促した。
口の端には、馬鹿にしたような笑みを浮かべたままだ。
「……」
「…お前、ゼロなんだろう?随分若いし、あれだな、マサキに憧れてこの業界に足を踏み入れたくちだろう」
「『100人殺しのマサキ』、有名になってるもんね。狙った相手は百発百中、誰も素性を知らない正義の殺し屋、って」
「最近憧れで軽く足を踏み入れる新人多いんだよなあ。すぐやめちゃうけどな」
薄暗い地下空間にクスクスと笑い声が響き、僕はなんだか恥ずかしくなって俯くことしかできなかった。
今日は来たくてここに来たわけじゃない。
組合員は、招集されれば顔を出さないわけにはいかないのだ。
どんなに新人でも、ベテランでも。
「今回はでかいヤマだからな。どのみち新人には無理だ。てゆうかお前、中学生じゃないの?」
サラリーマン風の男がそう言うと、またその場に笑いが起きる。
これにはさすがにムッとした。
僕は今年17になる、立派な高校生だ。
それでも僕は黙っていた。
そう、今回のヤマはでかいのだ。
おそらく、経験人数の多い者が実行メンバーに選ばれるだろう。
だから僕は、この場で発言するわけにはいかない。
だって今日は12月23日。
もうすぐ───
ふいに、ポケットからマヌケな音楽が鳴り響いた。
僕は慌ててスマホを取り出し、音を止める。
「おいおい!スマホの電源切っておくなんてのはこの業界の常識だろ!?」
「新人のせいで私達まで捕まったらシャレにならないんだけど」
刺すような視線を浴びて、僕ひたすら謝りつつも、届いたメッセージを素早くチェックする。
『こんなに帰りが遅いなんて、マサキは悪い子?晩ご飯いるでしょ?』
メッセージは母さんからだった。
僕は一気に青ざめる。
「ぼ、僕!急用で…やっぱり帰ります!!」
急いでスマホをポケットに押し込み、僕は駆け出した。
「ははは!それがいい!子供にゃ無理な仕事だ!」
背中越しにたくさんの笑い声が響いたが、そんなことはどうでもよかった。
ビルを出て、イルミネーションでキラキラした街を駆け抜ける。
100人殺しというのは尾ひれがついた噂で、実際にはまだ96人だ。
仕事は選ぶので、ターゲットはみんな極悪人ばかり。
それに、願掛けとしてこの一ヶ月は仕事を控えてきた。
今だって、悪い子にならないために家路を急いでいる。
僕は立ち止まり、イルミネーションの光で霞んだ星空を見上げ、切に祈った。
だからどうか、どうかお願いします。
今年も僕のところに来てくださいね、サンタさん。
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