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「な、んで泣くわけ」
「あ........」
気がついたらあたしは涙を流していたらしい。
慌てて止めようと手で擦ると「痛くなるよ」と手を抑えられた。
「なにが嫌だった?俺がこうしてること?」
「なにもかも嫌だよ」
結城くんが一花さんを大切にていることも、あたしを大切にしてくれないことも。
こんな簡単なはずがないと気になりつつも否定してきたのに、もう否定なんてできない。
あたしは結城くんのことが好きでたまらないらしい。
「誰だったらいいんだよ」
「……え?」
「俺がすることが気に入らないなら、誰だったら同じことしても気にならない?煌大?凜斗?」
今日の結城くんはよく喋る。
「こんなこと好きな人にしかされたくないし、して欲しくないよ」
「……好きな奴いんの?」
あたしの言葉に一瞬結城くんの力が弱まったので「いるよ」と答えて、結城くんから逃れる。
「結城くんも好きな人にだけ、こういうことした方がいいよ。他の子を勘違いさせちゃダメだよ」
そう告げて、調理セットを手にしてそのまま結城くんの部屋を出る。
あたしの言葉のあと、ぽかんと口を開けたまま呆然としている結城くんは当然何も言っては来ない。
何をあんなに呆然としているのか。
そういえばこの部屋に来てからの結城くんはすこしいつもと違っていたななんて妙にハッキリしている頭で考える。
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