屋上で寝る、見つからないコンセント。

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屋上で寝る、見つからないコンセント。

「雨が降ってきそう」  派手なトライバル柄のマイクロフリース毛布に頭までくるまったゆかは、空を見上げて言った。空は暗灰色に染まって、今すぐ雨粒が降りてきてもおかしくない様子だった。 「じゃあやめる?」 「ううん。予報では降らないみたいだし、空気はまだ湿ったにおいしてないし。それにほら、ここなら屋根があるから」  ゆかは屋上に上がってきた入り口を指さした。  私はコートの上に車屋でもらった景品の薄っぺらいブランケットを肩に巻き付けている。最後に寝たいのと言われて、気持ちのないセックスなんて気が進まないなと思っていると「しゅんくんの会社の屋上って入れる?」と言った。 「どこかの屋上で二人で寝たいの、そして朝起きたらあんパンとコーヒーを一緒に食べたいの、それでさよならするから」  自分の会社はセキュリティが厳しくて屋上なんて入れない。ようやく行きつけの飲み屋の入っている雑居ビルの屋上を紹介してもらった。「事故が起きても責任持たないよ」という捨て台詞付きで。使える屋上探しは結構大変で、これなら最後にセックスの方が良かったじゃないかと思った。でもちょっと面白そうだと思ってしまった私も同罪ではあった。  自分から言っておいて、ゆかはイメージとずいぶん違っていたらしく元気をなくしている。床はもっと何にもないかと思っていたけれど煤なのか飛んできた細かい砂なのかで全体的に小汚い。屋上の周囲には柵が無く、45センチに満たないヘリがあっただけだったので、ゆかは怖がって、寝床と決めたポーチにレジャーシートを敷いた一角から動こうとしなかった。 「どうしてこんなことを?」  私がヘリを覗くのも怖いからやめてと言うので、仕方なしにポーチに座った私はゆかに訊いた。 「別に…。屋上なら、テレビもないし真っ暗だろうから、ちゃんと二人きりになれるかなと思ったの。でもここは街中だから明るいしうるさいね」 「ああ……」私は思わずゆかを抱きしめそうになった。 「いいんだよ、そんなことしなくて。しゅんくんはもう私のこと好きじゃないでしょ」  ゆかは彼女の肩に伸ばしかけた私の腕を優しく下させた。 「だけど今夜だけは肩を貸してね」  彼女は怖がっていた割にすぐ寝てしまった。私は、彼女の寄りかかる左肩に重みと温かみを感じながら少し泣いた。シャンプーのいい匂いがした。
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