体育館で寝る、解きかけた暗号。

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体育館で寝る、解きかけた暗号。

 みんなよくこんなところで寝られるね。  自分のことを繊細だとあまり思ったことはないのだけれど、でも寝る時だけはダメだった。今日の布団はキャンプにしては割と良くて、これはラッキーだ、早く寝てしまおう、と眠ることだけに集中したのに、やっぱり寝付かれなかった。人の寝息が聞こえてしまうと、それがどんなに安らかで静かなものでも、もう気になって気になって叫びだしたくなる。  私は体を半回転させて開いているドアの方を向いた。昼間、荷物を置きに来た時は広い運動場の向こうに山並みが青く見えていたが、今は遠くに幹線道路の街灯がちらつくだけでほとんど真っ暗だった。山の涼しい夜風が私の頬を撫でた。  仕方なく、昼間やったレクリエーションのことを考えた。与えられた不完全な地図をもとに、いくつかのポイントを巡ってヒントを集め、宝のありかを探し出すものだった。答えは出せたのに、ゴールに辿り着くまでの間に時間切れになってしまった。  クリアできなかったことは悔しいけど、実はどっちだっていい。ただ中里君ともっと普通に話せたら良かったなと思った。多分挙動不審だったし絶対変な子だと思われた。なんなら好意がバレてしまったかも。男女で分かれているものの、彼はこの体育館のどこかで寝ているはずだった。それとも私と同じように、寝付けないでいたりして。そんなことないだろうことは分かっていたけれど、どうせ確認できないのだから、そう思っていようと思った。  眠れないとき、あなたは何を考えるのかな。好物のカツカレーのことかな。それともサッカーの試合や海外クラブのことかな。でもきっと私のことじゃないよね。私はジャージが水分を含んでじとっとするのを憎んだ。
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