2人が本棚に入れています
本棚に追加
枯野で寝る、となりでも寝息。
「見つからないよ、もうあきらめようよ」
僕が大声で呼びかけても、聞こえているのかいないのか、姉さんは枯野の丘をどんどん先に進んでいってしまう。丘はこの辺りで秋に吹く西からの強い風に覆われていて、僕の耳の横でびゅうびゅうと音を立てている。たっぷりしたワンピースは歩きにくいはずなのに、どんな仕組みで膝まである草を掻き分けているのかわからない。
姉さんが探しているのはおもちゃの指輪だ。全体がセルロイドでできていて、石のところは同じく赤いセルロイドが嵌っている。なぜそれが姉さんにとって大事かというと、リチャードから貰ったものだからだ。そしてなぜうちの広大な枯野の中でそれを落としたかというと、リチャードとそり滑り遊びをしていたからなのだ。もう少ししたら結婚だってできる年齢になるのに、姉さんは今も幼馴染の彼と子供っぽい遊びばかりしている。
姉さんが立ち止まったので、僕はやっと彼女に追い付くことができた。彼女は地面を凝視している。
「見つかった?」
僕は姉さんの視線の先を見た。姉さんは泣き出しそうな顔をしている。手には指輪が握られていたが、台座はぽっかりとあいていた。赤いセルロイドが何かの弾みで取れてしまったらしい。指輪だけでも見つかったのが奇跡なくらいなのに、あのちっぽけな赤い塊を見つけるなんて無茶だ。僕と姉さんは一応この辺りを探してみたが、とうとう見付からないまま日が暮れてしまった。
・・・・・・・・・
「わー!ぶつかるぶつかる!」
「よけろー!」
私とリチャードはそり滑りで坂を滑り切ったところで衝突して、そりから投げ出されて転がった。
「けがはない?エイミー」
「どこも痛いところはないわ。あなたは?」
「う、腕が」リチャードがそう言うので心配して近付くと、「かかったな!」と腕を引っ張られ、私はまた枯野の中に投げ出された。そのまま二人で取っ組み合いをしたので、二人とも洋服が枯草だらけになった。
「あー楽しかった。でもまた君はお転婆娘だと言われるな」
「うん。でもこれも今日までよ」
「どうして」
「私、結婚が決まったの。多分あなたとは今までのようには会えなくなるわ」
リチャードは私の大好きな悲しげな困った顔になって、無言で私を抱きしめた。ここは坂の下だし、とりわけ草の丈が長い場所だから、うちの誰にも私たちのことは見えなかっただろう。
最初のコメントを投稿しよう!