枯野で寝る、となりでも寝息。

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枯野で寝る、となりでも寝息。

「見つからないよ、もうあきらめようよ」  僕が大声で呼びかけても、聞こえているのかいないのか、姉さんは枯野の丘をどんどん先に進んでいってしまう。丘はこの辺りで秋に吹く西からの強い風に覆われていて、僕の耳の横でびゅうびゅうと音を立てている。たっぷりしたワンピースは歩きにくいはずなのに、どんな仕組みで膝まである草を掻き分けているのかわからない。  姉さんが探しているのはおもちゃの指輪だ。全体がセルロイドでできていて、石のところは同じく赤いセルロイドが嵌っている。なぜそれが姉さんにとって大事かというと、リチャードから貰ったものだからだ。そしてなぜうちの広大な枯野の中でそれを落としたかというと、リチャードとそり滑り遊びをしていたからなのだ。もう少ししたら結婚だってできる年齢になるのに、姉さんは今も幼馴染の彼と子供っぽい遊びばかりしている。  姉さんが立ち止まったので、僕はやっと彼女に追い付くことができた。彼女は地面を凝視している。 「見つかった?」  僕は姉さんの視線の先を見た。姉さんは泣き出しそうな顔をしている。手には指輪が握られていたが、台座はぽっかりとあいていた。赤いセルロイドが何かの弾みで取れてしまったらしい。指輪だけでも見つかったのが奇跡なくらいなのに、あのちっぽけな赤い塊を見つけるなんて無茶だ。僕と姉さんは一応この辺りを探してみたが、とうとう見付からないまま日が暮れてしまった。 ・・・・・・・・・ 「わー!ぶつかるぶつかる!」 「よけろー!」  私とリチャードはそり滑りで坂を滑り切ったところで衝突して、そりから投げ出されて転がった。 「けがはない?エイミー」 「どこも痛いところはないわ。あなたは?」 「う、腕が」リチャードがそう言うので心配して近付くと、「かかったな!」と腕を引っ張られ、私はまた枯野の中に投げ出された。そのまま二人で取っ組み合いをしたので、二人とも洋服が枯草だらけになった。 「あー楽しかった。でもまた君はお転婆娘だと言われるな」 「うん。でもこれも今日までよ」 「どうして」 「私、結婚が決まったの。多分あなたとは今までのようには会えなくなるわ」  リチャードは私の大好きな悲しげな困った顔になって、無言で私を抱きしめた。ここは坂の下だし、とりわけ草の丈が長い場所だから、うちの誰にも私たちのことは見えなかっただろう。
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