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名無様 Happy Birthday!!
名無さぁぁん!!誕生日おめでと~!!!
ささやかですが……。
【St.Evilnight Saga ~献身的な想い~】
サンサンと太陽が輝く昼日中。
主が部屋で幸せそうに眠っている頃合いを見計らって、蝙蝠達は近くにある洞窟に集まり、ひそやかに密談を始めた。
主の安眠を邪魔するわけにはいかないとの配慮だが、話し合いを聞かれたくないというのも理由の一つである。
『主がどこの馬の骨とも知らぬ男に、心奪われることだけは阻止しなくては』
一匹が、気負ったように声高に吠えた。
それを皮切りに蝙蝠達は神経を尖らせ、くすぶる火種から小さな炎がパチパチと燃え上がるように議論は熱を帯びていく。
『それは、この間下僕にしたロクデナシのこと?』
『いつもの主なら、聖職者は血を啜ったあと野放しにしてたのに、今回は下僕にした。怪しい』
気を揉んでいたのだろう。怪しいなんてモノじゃないとばかりに、キィキィと他の蝙蝠達も賛同する。堰を切ったように議論は紛糾し、拍車がかかった。
『主が下僕にするいつもの傾向と、性格的なものが今回はだいぶ違うと思う』
『そうだそうだ! いつもと違うぞ。主の嗜好の変化か?』
『主もお年頃で、ちょっと火遊びしてみたくなったとか』
『……それは、我らは主の成長と喜ぶべきなのか? 悲しむべきなのか?』
『どちらにしろ、健全な方向へ導かねば!!』
直接言葉には出さないものの、” あの神父を恋愛対象にするのは不健全だ ” という意見で一致している。
言外に込められた意見の一致は見事だ。主を想う可愛い子達の愛が、誰に誓うでもなく暗い洞窟内に決意表明のように満ちた。
『しかし、どうするんだ?』
『どうするって……健全な男を連れてきて、主の意識をそちらに向けさせるのが一番手っ取り早くないか?』
『そう言えばこの間、主が美味しそうと目を輝かせていた男、あれは健全そうだったのに、あの神父が邪魔して……』
『下僕の分際で主の邪魔などと!! 立場を理解していない!!』
『いや……あの神父、頭はキレるんだよな。もしかして、わざと邪魔した?』
『主に気があるってことか!?』
『だとしたら尚のこと、早く主を引き離さねば』
まかり間違っても、あんなロクデナシに我らの主は渡さない。悪い男に引っかかって主が泣くような事態に陥らないようにしなくては!!!
それからというもの、蝙蝠達は主が好みそうな健全(だと蝙蝠達が判断する)男を探して東奔西走した。しかし見つけてきて主に紹介しても、「そうねぇ」と微笑むだけで下僕にする気配はない。蝙蝠達の内心に、焦りが生まれる。
『どうする?』
『こうなったら、我らが人間に化けるしか……』
『そんな能力、持ち合わせてないぞ』
『キツネやタヌキ、葉っぱを頭に置いて化けてたぞ。我らも出来るかもしれん』
そして、蝙蝠達の化け修行が始まった。
頭の上に拾った葉を置き、人間になるイメージで念じ続ける。
しかし、一向に化けることは出来なかった。
『……出来ん』
『我らには、何かが足らないんじゃないか?』
『何かって?』
『例えば、人間は過酷な修行をする。東の国の坊主は滝行をして過酷な修行をすると聞く。徳を積むとか何とか言ったか……』
『滝行か……』
近くに滝はあるものの、打たれ続けることを考えると恐怖を感じた。
後ろ向きな考えに思考回路が働く中で、「でも、我らが諦めると……」と一匹が切り出し、隣の蝙蝠の肩に翼の先端を、その頬にはもう一方の翼を当てて、主の声と口調を真似る。
『「愛しいポラード神父、下僕じゃなくて、私の愛人になりなさい」とか言い始めたら……』
ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!
蝙蝠達の世界の終わりを感じさせる断末魔が、悲壮感を伴って響き渡る。
木にぶら下がっていた数匹など、ショックが大きすぎて足を滑らせ、ベシャッと地面に貼りついた。
その様は、主が愛人を作る可能性のある未来よりも悲惨に見える。
『や、やるしかない。主の為に!!』
一匹が震える体を抑えて言うと、命が危険に晒されることを吹っ切るかのように、他の蝙蝠達も血気盛んな雄叫びを上げる。
『やるぞ! 滝行!!』
『あのロクデナシ神父に主を渡さない為に、我らは人間に化けられないといけないのだ!!』
しかして、蝙蝠達の無謀な滝行が始まった。
激しい水圧に屈して、枯れ葉の如く流れてしまう者も多く、飛び込む匹数よりも救助に動く匹数の方が遥かに多く必要で、修行は困難を極めたが、団結力は一層強くなったのだった。
あまりの無謀な行為に、熱を出して倒れる者、骨を折る者などが続出し、主が訝しみ始めたが、言うわけにはいかない。
病人怪我人を洞窟で静かに休ませているのだが、そんな仲間達の中に可笑しな現象を伴う者が出始めた。
『主~もっともっと、可愛がって』
キャッキャとはしゃぐ子供のような寝言を言う蝙蝠もいれば。
『疲れてるんだろう、主。この間の討伐部隊殲滅は、本当に頑張ったし。傍にいるから、ゆっくり休め』
と、どこか大人な雰囲気を漂わせたうわ言を口走る仲間もいるし。
『主綺麗だからさ。ロクデナシ神父だって迫られたら落ちちまうと思うけど……あんな男より、我らにしとけって』
どこかのホストのようなチャラい譫言をほざき始める危険なのまで出始め。
『優しい主だから、その魅力に気付いた変な男がすぐ寄ってくるんだ。人間の男なんて……あんな策士な神父なんかより、我らの方が安全なんだ。だから主、傍にいて……』
涙ながらに魘される、健気な可愛い奴まで現れた。
それを看病しながら聞いた仲間達は思った。
我らが人間に化けられるようになったとしたら、仲間割れが起きるかもしれないと。
主を我が物にせんと仲間を出し抜こうとする奴も現れるだろう。そうなった場合、仲間割れが起きる可能性が高い。皆、主のことは愛しているのだ。
怪我も病気もなく、動き回れる元気な蝙蝠達は集まって、再び相談を始めた。
自分達と主との関係性を変えることなく、人間に化けられなくてもロクデナシ神父を排除する方法についてを検討していく。
そして、一つの結論を導き出した。
主がロクデナシを見捨てざるを得ないような状況に追い込めば良いのだ。
そして、そんな食べ物を知っている。
元気な蝙蝠達は、山へ捜索に出た。
この山で見たという話を、訊いた記憶があったのだ。
飛び回ること5日。ついに群生地を見つけた。
彼らは少し大きめの葉っぱを調達して、そのブツを5本狩る。
それを持って教会へと出向き、神父が出入りする裏口に大きな葉を敷いて、そのブツを置いた。
ヴァンパイアは毒を盛られても、死ぬことはない。
ならばいっそ……
暫くして、ロクデナシ神父は裏口に届けられたブツに気が付いた。
それをしげしげと観察すると、眉根を寄せる。
「これはマズイな。信徒の誰かが持ってきたのだとしたら、口にする前に止めないと……」
そう言って、ブツを片手に出かけていく。
その後、帰って来てから庭の隅に穴を掘り、そのブツを一つ残らず埋めてしまった。
「下僕~? 仕事もしないで何してるのよ」
「仕事してきましたよ。裏口にキクルイタケが置いてあったので、信徒の誰かがお裾分けにとくれたのだとしたらマズイと思って駆け回ってきました」
「キクルイタケ?」
「えぇ。その名の通り、気が狂うんです。焼いた煙を吸ったら廃人に、食せばその毒が身を蝕んで気を狂わせ、最終的には命を落とす危険なキノコです」
「ふ~ん? 見た目は美味しそうなのに……」
「その辺に生えてるキノコ、口にしないで下さいね、高杜さん」
「しないわよ。バカにしないでちょうだい」
つんっと素直じゃない態度を取りながらも、主の目は生き生きとしている。今の生活に満足し、幸せだと語っていた。
蝙蝠達は、そんな主にどこか寂しさが募る。
『主の幸せを、壊すのは気が引けるな』
『現状維持で、あのロクデナシ神父が主に危害を加えないよう守るのが我らの務めかもしれん』
そして不承不承だが、現状を維持することに決めた。
主の幸せは自分達の幸せだ。主が泣くのは見たくない。
だが、あのロクデナシには渡したくないのだ。それは、嫉妬心からなのかもしれないけれども。
蝙蝠達は、主とロクデナシ神父の関係が進展しないように、容赦なく邪魔することをその小さな身に誓ったのだった。
Fin.
❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀
調べたところ、誕生花であるラベンダーの意味は ” 献身的な愛 "。
ということで、献身的な可愛い子達のお話をお届けします。
Twitterで上がった、バリエーション豊かなほめてくれる男子を参考に、様々な子を用意してみました。
名無さんの手元に、幸守が多く飛び交いますように!!
(2020年7月10日)
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