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「好きよ、青葉」
『それ』が聞こえた瞬間、凍りついた。
カタカタと手が震える。頭が真っ白になる。
だが次の瞬間、背後で朗らかな笑い声が上がった。
「……の作ったご飯!」
「ッ!ばっ、この……お嬢様!」
勢いよく振り返ると、思った通りくすくす笑う少女が一人。艶やかな黒髪を背中に垂らし、水色の地に白い花柄の着物を纏う姿は可憐だが、黒目がちの瞳にはからかいの色が浮かんでいる。
「やーい、引っかかったー。これで何回目かしら。学習しないのね、お馬鹿さん?」
「馬鹿はどっちですか。それとも死にたいんですか?どうでもいいですけど、私に迷惑をかけるのはいい加減してください」
「主人に向かってその口の利き方はなに?あんまり酷いと解雇しちゃうんだから!」
「はいはい。いつでもどうぞ」
うんざりしながら返すと、向こうも桜色の唇を尖らせそっぽを向く。
「言っておくけど、青葉のことなんてちっとも好きじゃないから。せいぜい嫌われてないだけよしとしなさいな」
「そうですか。私は嫌いな相手でもお世話しますよ。仕事なので」
冷たく言い放ち、投げつけられる文句を無視して背を向ける。
好かれるくらいなら嫌われた方がマシだ。
どうせ、誰も救われない。
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