花は落つ

1/5
前へ
/5ページ
次へ
「好きよ、青葉」  『それ』が聞こえた瞬間、凍りついた。  カタカタと手が震える。頭が真っ白になる。  だが次の瞬間、背後で朗らかな笑い声が上がった。 「……の作ったご飯!」 「ッ!ばっ、この……お嬢様!」  勢いよく振り返ると、思った通りくすくす笑う少女が一人。艶やかな黒髪を背中に垂らし、水色の地に白い花柄の着物を纏う姿は可憐だが、黒目がちの瞳にはからかいの色が浮かんでいる。 「やーい、引っかかったー。これで何回目かしら。学習しないのね、お馬鹿さん?」 「馬鹿はどっちですか。それとも死にたいんですか?どうでもいいですけど、私に迷惑をかけるのはいい加減してください」 「主人に向かってその口の利き方はなに?あんまり酷いと解雇しちゃうんだから!」 「はいはい。いつでもどうぞ」  うんざりしながら返すと、向こうも桜色の唇を尖らせそっぽを向く。 「言っておくけど、青葉のことなんてちっとも好きじゃないから。せいぜい嫌われてないだけよしとしなさいな」 「そうですか。私は嫌いな相手でもお世話しますよ。仕事なので」  冷たく言い放ち、投げつけられる文句を無視して背を向ける。  好かれるくらいなら嫌われた方がマシだ。  どうせ、誰も救われない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加