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プロローグ
運命の赤い糸を信じている人は、果たしてこの世界にどれだけいるのだろうか。将来を共にする人は生まれながらにして決まっており、恋愛においては運命の人とのつながりを、しばしば赤い糸と表現される。
そんな話、馬鹿馬鹿しいと大抵の人は受け流すような夢見な迷信を、僕も信じていない。いや、信じたくないという方が適切だろうか。
ただ、赤い糸で繋がった者同士が、実際に家庭を築いて幸せそうに生活する様子をこれまで何度もたまたま見て来た。そう、ただ偶然、僕にだけ見えるそれが繋がった者同士が結ばれる。それだけの話だ。
僕には、人と人の間に揺れる赤い糸が見える。信じたくはないのだが、いわゆる運命の赤い糸というやつだ。
赤い糸は、大抵の人からは胸の中心からほつれた毛糸のように飛び出していて、どこかの誰かと一本の線として繋がっている。そして、将来的には赤い糸同士で繋がった人たちは、結婚や子供の有無等は差があれど、幸せな関係を持つ。
放課後の校内を歩いて見渡しても、やはり皆、赤い糸を垂らしている。それが、どこへ繋がっているのか分からない人だったり、はたまた目の前で話している人と繋がっている人もいる。
だからこそ、僕は運命なんて言葉を信じたくないのだ。
喧騒に塗れた廊下を抜け、突き当たりの教室に入ると、それまでの賑やかな空気は一変し、思わず緊張してしまうほどの静寂の場が広がる。圧迫感すら感じるぎっしりと並んだ本と、目的は違えど、黙々と視線を落として作業をする人たち。時折、本のページが擦れる音や、カリカリとペンを走らせる音がより一層、空気を重くしている。
でも、重たい空気は別に嫌な雰囲気ではなく、確かに透き通っていて、静まり返っているはずなのにそこには心地よい重厚なメロディーが存在しているのだ。
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