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冬の長期期間中にあった新年祭にて。
「ハーヴェイ。話がある」
ムゥロカは、ハーヴェイに切り出した。ムゥロカの部屋に呼び出されて来てみれば、アイオンとダムセルまでいる。ダムセルは同じ年の公爵家子息。将来公爵家を継ぐ男だ。もちろん、ハーヴェイとも仲が良い。
「なんでしょう?」
そう答えながらも、ハーヴェイは嫌な予感がしていた。何しろ全員深刻な表情なのだから。
「簡潔に言おう。俺達は、ティルアラを妻にしたい」
「は? 嫌ですよ。ティアは、俺のものです」
「解っています。そんな事。百も承知です。それでもティアを諦められないのです。僕だって、何度諦めようとしたことか」
アイオンが苦しそうに胸の内を語る。こんなアイオンを見たのは、長い付き合いだが初めてで、ハーヴェイは戸惑う。
「俺さ、従妹の面倒をずっと見て来たわけだ。別に嫌じゃないけど、疲れる時もあるだろう? 従妹は淑女教育全然出来なくて、泥んこ塗れで遊んでるようなお転婆でさ。可愛いけど、疲れる。そういうの、ティアさんは見て来ているのに、俺が素敵な人だって。そんな事を言われたら、惚れるだろう?」
ダムセルまでそんな事を言い出した。
「もう父上や兄上にも話してある。兄上は直ぐにティアの素性を調べて、母親が身体が弱い事。滋養のつく食べ物を食べさせてやりたい事。弟も7歳で、将来の事とか心配な事を引き合いに了承させろ、と言っていた。見返りは、ティアの語学力だ。ティアの祖母は、我が国で使われている言語外の異国から来たから、言語で苦労しているだろう? だからティアは、あちらの国の言語を習得している。外交に役立つ、と兄上は思われた。父上もそれを知って、直ぐに婚約の手続きに入ったぞ」
更にムゥロカが畳み掛ける。
「僕も父上に話したら、国王陛下からティアの話を聞いていたみたいで、一妻多夫制を使えば、ムゥロカ殿下と共に、僕も夫になれる、と了承して下さった。ついでに、ダムセルも公爵に話をしてあって、既にハーヴェイの父上である騎士団長様にも話は伝わっている。君が了承するなら、一妻多夫制を認めてくれるそうだ」
ハーヴェイは、外堀を埋められた事を知った。下手に断り続けて、王家に取り上げられて、ティアとの婚約を破棄されたら……と考えれば、受け入れるしか無い。
ハーヴェイにとって、いや、ムゥロカもアイオンもダムセルも、既にティルアラのその優しく懐の深い愛情を欲していた。手放せなくなっていた。
「星降り祭の時に話して、ティアが受け入れたなら、俺も受け入れます」
それが、ハーヴェイの精一杯の抵抗だった。そうして、迎えた星降り祭で、ティルアラは、断れない結婚を了承する事になる。
だが、ティアを手に入れた4人は、その優しく深い愛情に心が潤い、幸せに溢れ、その分以上にティアを愛していたので、結果的にティアは執着と言っても良い溺愛を4人から受けて幸せになれた。
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