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「ここは、逆ハーマンガの世界っ! しかも私ってば、ヒロインじゃん! よっし! 目指せ、逆ハー!」
と、叫ぶのは幼馴染みで友人のアンリ様。前から言動がおかし……いえ、変わっている方だったけれど、更におかし……いえ、変わった事を叫ばれていますわ。
ぎゃくはー?
まんが?
ひろいん?
何の事でしょう。とりあえず、小さい頃から淑女教育より泥んこ塗れになって走り回っていた彼女の行動は、私には呆れ半分羨ましさ半分でした。そして何より楽しそうに、会う度笑っていらした。だから私も彼女に会うと笑顔になれました。
だから、10歳を迎えた私達は貴族の淑女教育の一環でお茶会を開いても、彼女だけは他のご令嬢達と別で、私は彼女の家で開かれるお茶会が好きでした。だって、他の方の家では出されたお菓子に手を出せないのよ? 皆、お喋りばかり。だけど彼女の家で開かれるお茶会だけは、彼女が遠慮しないで手を出して! って言ってくれるから手を出せますのよ。私? 私の家でもそうしていましたわ。だけど、それははしたないってお母様から叱られてしまうの。
美味しいお菓子を前にして、食べずに喋るだけって、お菓子を作ってくれた料理人に失礼だと思いますのよ! そんなわけで、私は今日もアンリ様の家で開かれるお茶会に足を運びましたわ。でも、今日は、先程のようにアンリ様が突然叫ばれたの。今日も美味しいお菓子を食べていて、いきなりよ? でも、アンリ様なら仕方ない。って思ってしまうわ。
まぁ、何だか良く分からないけれど、目指せ。って言ってるんだから、私はアンリ様を見守る事にしますわ!
「アンリ様、楽しい事ですか?」
「ええ、ティア。ん? ティア? えええええ! ティルアラぁあああ⁉︎」
アンリ様がまたも叫び出しました。しかも愛称じゃなくて本名を叫びますし。私の名前がティルアラだって忘れていらっしゃったのかしら?
「ちょ、ちょ、ちょーっ!!! ちょーっと待ったぁあああ! ティアって、ティルアラよね⁉︎」
「そうですわ?ずうっとその名前ですわよ? だからアンリ様はティアって呼んで下さっているじゃない。もしかして、アンリ様は私の名前を忘れてしまわれたの?」
もしかして、この反応は本当にお忘れになられたの? 嘘でしょ? こんなに長く友人としてお付き合いしていて、忘れられてしまっているの⁉︎
「あ、ああ、うん。ええと、大丈夫。忘れてないから」
なんだ、忘れてませんのね。良かったですわ。安心しました私。だけど、アンリ様はボソボソとなんだか呟いております。
「えっー。確か、ティルアラの婚約者が逆ハー相手の1人じゃなかったっけ? そう、騎士団長の御子息・ハーヴェイ様」
ハーヴェイ様? 確かに騎士団長の御子息です。ですが、私とは婚約していません。アンリ様の想像でしょうか? その上、更に何かを仰っています。
「あと、誰だっけ? あ、そうだ。第二王子・ムゥロカ殿下。それから宰相の御子息・アイオン様。あと、ああっ。従兄のダムセル兄様だわ! そうよ、その4人だった」
アンリ様、ムゥロカ殿下とアイオン様とハーヴェイ様とダムセル様のお名前を上げていますけど、お名前を呼ぶ事で、何かあるのかしら?
「アンリ様?」
考え事をしているアンリ様に、そっと呼びかけました。アンリ様は、ハッとした顔を浮かべて私の両肩を掴まれました。
「ティア! 私達、友達よね⁉︎」
「はい、アンリ様! 私達は友達ですわ」
えっ。違ったかしら? 私は友人のつもりだったのですけど。
「もし、もしも、よ? ティアの婚約者を将来、私が奪ったら友達をやめる?」
えーっと。私の婚約者をアンリ様が奪ったら……? うーん。それは無理ですわー。
「それは、無理ですわ」
「やっぱりそうだよね。私と友達を続けられないよね?」
「いえいえ、そういう事ではなくて、ですね。落ち着いて考えて下さいませ、アンリ様。私には先ず婚約者がおりません。それから今後婚約者が出来たとした場合、それは即ち家同士の約束事ですから、心が私の元に無くても、その方との結婚は無くなりませんわー」
「それが、どうにかして婚約破棄されて、それで私とその方が恋人になったとしたらティアはどうする?」
「そうですわね。その方に失望しますわ。だって、家同士の約束事を破りますのよ? 有り得ませんわ! 婚約をするからには、互いに良い事がありますの。アンリ様もお分かりでしょう? ですから、失望しますわ」
「私との友達関係は?」
「変わりませんわ。私が婚約者の方に恋をしてしまっていたら、分かりませんが」
「あ、ああ、そうね」
納得されたのか、アンリ様は頷き、それ以上の質問をされて来なかったですわ。だけどまだ何かブツブツ言ってらっしゃるわ。
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