友を見守っていただけなのに……

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 「私、ティアが婚約者に恋をしていたら、それを邪魔するのかしら……? ええい、なるようにしかならないわ!」  アンリ様はご自分で納得されたらしくて、私を見てニコッと笑われました。私もニコッと返します。アンリ様は変わっていらっしゃるけど、でも大好きな友人だから、その笑顔を見られるのは嬉しいですわ。アンリ様が呟いていた独り言は解らないけれど、アンリ様を見守れば良いのですわよね?  あのお茶会から半年が過ぎました。アンリ様は私に「自分磨きをしましょう!」と仰るので互いに励まし合って、淑女教育を益々頑張りました。……けれど、アンリ様、相変わらず泥んこ塗れで外を走り回ってます。えーっと、大丈夫、でしょうか? 自分磨きをするのでは無かったのでしょうか? 心配する私に、アンリ様は自身満々に大丈夫! と答えられるので、お勉強の合間に遊んでいるのかもしれない、と思い直しましたわ。  そんな時でした。騎士団に勤めているお父様の元に、騎士団長とその御子息が我が家にいらしたのは。ハーヴェイ様は、私の2歳年上で、何だか眉間に皺を寄せていらっしゃる方でした。私が挨拶をしても、眉間の皺は無くならず、「ハーヴェイ」と名乗るだけ。……うん。アンリ様が呟いていた“婚約”にはならないと思いますわ。私、嫌われているみたいですし。そう思ったら、私の緊張が解れて、私はハーヴェイ様に色々と話しかけてみることにしました。  「ハーヴェイ様、剣のお勉強もするのですか?」  「勉強じゃなくて、修行だな。する」  「将来はやっぱり騎士ですか?」  「そうだ。父上みたいに団長になって、皆を守る」  「将来の事を考えているなんて、凄いですねぇ。団長って、どうすればなれるんですか?」  「強くて、剣も1番で……あと、勉強も出来ないといけない。でも俺、勉強嫌い」  「ええっ? でも団長になりたいんでしょう?」  「……そうだ」  「では、頑張りましょう! 私も勉強を頑張ってますから!」  「お前、変なヤツ。他の女は俺の顔が怖いって言って、話しかけて来ないのに、なんで笑顔なんだ?」  そう言われて私はビックリしました。別に私の事が嫌いで、眉間の皺が有るわけじゃないらしいです。んー、嫌われているって思っていましたから、緊張しなくて済んだだけなんですが。  「ええと。もしかして、嫌われているのかなぁ。とは思いました。だから、何を話してもこれ以上嫌われないかなぁって。だから緊張もしないです。でも、ハーヴェイ様とお話して楽しいなぁって思ったから、笑っただけですわよ?」  私が正直に嫌われていると思っていました。と言えば、更に眉間の皺が増えましたけれど、その後は段々と皺が消えました。それどころか顔が真っ赤になりました。……なんで?  そんなこんなで、ハーヴェイ様が帰る頃には、私達は仲良くなれましたのだけど。後日、私とハーヴェイ様が婚約する事になるなんて、私はちっとも思いませんでした。……なんで?  そんなわけで早速アンリ様に婚約の話をしてみましたわ。  「ほ、本当にマンガ通り! マジか。……ティア、おめでとう! ハーヴェイ様ってどんな感じ?」  おめでとう、の前に何やら色々聞こえて来ましたが……。ハーヴェイ様、ですか。  「んー。眉間に皺が出来た表情でしたわ」  「それも、マンガ通り!」  また小さな声で何か言ってますわ。  「それと騎士団長を目指していて、あとお勉強が嫌いだと仰っていましたわ」  「勉強嫌い? おかしいなぁ。マンガじゃあ勉強も出来ないと騎士団長になれないって頑張ってたはずなんだけど……」  色々ダダ漏れですけど、それが本当なら、アンリ様が言うまんがとやらとは別なのではないでしょうか? とはいえ、アンリ様は、私に聞こえないように呟いているつもりらしいですから、私は聞こえないフリをしなくてはいけません。全部聞いてます! なんて言って、アンリ様に嫌われたら悲しいですわ!
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