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「あとは、好きな食べ物とかお話しましたわ!」
「ああ、確か甘いもの、特にケーキが好きなんでしょう?」
「凄いですわ! 良くご存知なのですね!」
アンリ様、情報が早いですわ! もしかしてどこかのご令嬢のお喋りで聞いていらしたのでしょうか? だったら、私も他の方々とのお喋りを頑張らなくてはいけないですわ。アンリ様の友人の座を守るために、アンリ様に嫌われないように!
「それで姿は? やはり金色の髪にグレーの目?」
「まぁ、その通りですわ、アンリ様。良くご存知で!」
やはり、ご令嬢方とのお喋りをアンリ様は良く聞いていらっしゃるのね! お菓子ばかりじゃなく、きちんと話を聞いているアンリ様、さすがですわ!
「まぁ、マンガ読み込んでたしね。ヨシ。やっぱり15歳で入学する学院が舞台ね。……ティア、一緒に学院を目指そうね!」
アンリ様に笑顔で言われたら、私、頑張りますわ! 貴族の子女全員が入学する学院を目指すという事は、入試試験で上位という事ですわね! 分かりました。目指します。
そんなこんなで、私は今まで以上に勉強を頑張りました。一応婚約者らしいハーヴェイ様と手紙のやり取りもしていましたし、偶にお会いしていました。そんな日々が過ぎて2年。私とアンリ様は12歳。ハーヴェイ様は14歳になりました。
「えええ?」
私はたった今、ハーヴェイ様とハーヴェイ様のお父様の騎士団長様。そして私のお父様から言われた事に驚きました。
「驚かせて悪い。俺がティアの事を褒めるものだから、会わせろと言われてしまって」
ハーヴェイ様が、珍しくシュンとしていらっしゃる。出会った頃の眉間の皺は既に無くて、私の前ではぎこちなく笑ったり、怒ったり、驚いたり……と表情を見せてくれるようになったハーヴェイ様。そのハーヴェイ様にお聞きしたいのですが、私なんかの事を、第二王子殿下にお話したって、どういう事ですかぁ!
「お、お父様。お会いしない。とは……」
「言えない」
「ですわよね。第二王子・ムゥロカ殿下とハーヴェイ様は、ご友人だとは知りませんでした」
「将来、父上と同じ騎士団長を目指しているから、小さな頃から会っていたんだ。だから俺とティアが婚約している事も知っている。それで俺がティアを褒めるから、会いたいって。それから宰相の息子のアイオンも会いたいって言うから、2人に会ってもらいたいんだが……」
えええ……。嫌です。そんな雲の上の存在の方達に会いたくないです。ハーヴェイ様だって、身分的には凄い上なので、初めてお会いした日は、実はお会いしたくなかったのですわー……。でも王族から言われて、会えません! なんて恐ろしい事は言えません。
だってそんな事を言ったら、伯爵家とはいえ、斜陽で小さな領地の我が家は簡単に潰れてしまいますわー! シクシクシク。私、貴族じゃなくなっても構いませんけど、お身体の弱いお母様とまだ7歳の弟に、平民になって頑張りましょう! なんて言えませんわ。お父様だって、伯爵として、領地を守っていらっしゃるのだから、領民の事を考えたら潰されるのは嫌なはず!
「そ、粗相の無いように精一杯頑張って来ますわ、お父様……」
「ティア……。済まないな」
お父様の目から涙が。涙腺の弱いお父様だけど、私もその娘ですもの。既に涙腺は弱ってますわー。
「ティア! 俺が守る! 嫌な思いをさせない! だから安心してくれ!」
ハーヴェイ様がそう言って下さいますが、そもそもハーヴェイ様が私の話をするから、こんな事になっているんですのよー!
私の心の叫びはもちろん、ハーヴェイ様に伝わらず、涙目でハーヴェイ様を見上げたら、何故かハーヴェイ様は顔を真っ赤にされて顔を背けました。こんな状況に追い込んでおいて顔を背けるなんて、失礼ですわ! とにもかくにも、私がムゥロカ殿下とアイオン様にお会いする事は決定ですので、日程が決まったらその日にハーヴェイ様がお迎えに来て下さる事になりました……。
気分は、淑女教育を怠けてお父様とお母様に叱られる時より最悪な気持ちですわ! その気持ちのまま、アンリ様にお手紙で殿下とアイオン様にお会いする事になった、と伝えましたが、アンリ様からの返事は、どんな人達か教えてね! というものでした。……そういえば、アンリ様はこういう方でした。なんだか悩んでいるのが馬鹿らしいですわ! 元気出ました!
しっかりお会いして、アンリ様にご報告出来るように致しますわ! アンリ様のお役に立つ事が、友人の座を死守する事に繋がりましてよ! ということで、私は後日、ハーヴェイ様のお迎えでムゥロカ殿下とアイオン様にお会いしました。
「ティルアラ、だったな」
ムゥロカ殿下は、本当に王子様なのでしょうか。私は殿下のお身内でも婚約者でも無いので、呼び捨てにされる覚えはありませんわ。きちんと淑女としてご挨拶をさせていただきましたのに、殿下は挨拶も無く、いきなりコレですわ!
「恐れながら殿下」
「なんだ」
「私は殿下のお身内でも婚約者でも有りません。呼び捨てをされるのは嫌でございます」
私は基本的に穏和だと言われています。ですが、最低限の礼儀を弁えて頂きたいとは思いますわ。そこは、頑固だとお父様から言われていますのよ。
「お前、この俺に対して意見するなど、随分と生意気だな!」
お、怒らせてしまいました。でも、後悔しておりませんわ。最低限の礼儀は、殿下にとっても大切なはず。……でもお父様、我が伯爵家がお取り潰しになったらごめんなさいませー!
「生意気でも、事実でございます。殿下が礼儀知らずでは、我が国の恥になりますわ」
「なんだと!」
カッとなったのか手を振り上げられた殿下。私はぶたれる、と目を瞑りましたが、その衝撃は有りませんでした。恐る恐る目を開ければ、私の前には背中。見上げればハーヴェイ様です。更にその背中越しに見えたのは、殿下の手を捕まえているアイオン様。どうやら殿下をお止め下さったようです。
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