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「ムゥロカ様。非があるのは、ムゥロカ様の方でございますよ。ティルアラ様は正しい事を仰いました」
静かな声で殿下に注意するアイオン様は、素敵です。それからきちんと私を庇って下さったハーヴェイ様も。この方を素敵だと思う事が有るなんて、驚きました。
「ティルアラ嬢。改めて失礼しました。殿下の非は、代わりに謝ります」
王族は簡単に頭を下げてはいけません。馬鹿にされてしまいますから。だから、私はアイオン様のお言葉を受け入れました。この事でぎこちなくなりましたが、殿下付きの侍女さんが淹れてくれたお茶とお菓子が美味しくて、私は先程の件を忘れました。私がニコニコとしている事が、バカバカしいのか、ムゥロカ殿下は呆れたように笑われました。失礼ですわ。
でも、その後は私もハーヴェイ様も殿下もアイオン様も楽しくお喋り出来たと思います。ハーヴェイ様とアイオン様と殿下は同じ年で、来年には学院に入られますが、アイオン様がつきっきりで、ハーヴェイ様と殿下の勉強を見ているそうです。
「ハーヴェイ様、お約束通り、頑張って下さっていますのね?」
「ああ。騎士団長を目指すからな。ティアが学院を卒業したら結婚するわけだし、その時には、胸を張れるようになっていたいから」
ハーヴェイ様がそう仰って、そういえば、学院卒業後は、結婚するという話だったなぁと他人事みたいに思ってしまいました。実感が湧かないのです。でも、近付いたら実感出来るかもしれません。だから私は、微笑みました。
「ハーヴェイ様とのご結婚、楽しみにしておりますわ」
ハーヴェイ様は、真っ赤になってしまわれました。……なんで?
そんな会話も有りながら、殿下とアイオン様との1日が過ぎて、私はお咎めもなく、無事に帰って来ました。後日、なかなか会う機会が無くなったアンリ様に、お手紙でご報告しました。
ムゥロカ殿下は、なんだか威張っている方で、髪は若葉みたいな緑色。目の色は茶色。
アイオン様は、物静かで、お勉強が良く出来る方で、髪は晴れた空のような青色。目の色は夜空のような藍色。その手紙を受け取ったアンリ様が、「やっぱりマンガ通りのビジュアルー!」なんて叫んでいる事は露知らず、私はまた淑女教育とお勉強を頑張る日々を過ごしました。
ただ、何故か、ムゥロカ殿下とアイオン様とお会いする事が増えまして、私は泣きたいです。そんな身分が上の方と会いたくないんですってばー! とはいえ、やがてムゥロカ殿下もアイオン様もハーヴェイ様も学院に入学され、長期休み以外はお会いする事も無くなり(いえ、長期休みも会いたくないですけど)いよいよ私とアンリ様が入学する日を迎えました。
入学前の試験で、私達はクラスが決まっています。アンリ様と同じクラスになる事を願って、今日まで頑張って来ました! アンリ様はきっと1番上のAクラスでしょうから、私もAだと良いのですが。結果は、残念ながらBでした。でもAクラスの隣ですから、休み時間には会いやすいです。そう、思っていたのに、アンリ様は1番下のFクラスでした。何故ですかー!
「あ。私Fかぁ。離れちゃったねー」
って呑気過ぎます! 教室が離れ過ぎですわー! 私はショックを受けましたが、ニコニコとしているアンリ様を見ていたら、ショックを受けている場合じゃない。と思いました。常に前向きなアンリ様です。見習わなくては。学院で友人が多く出来ますように。
そう願っている私の隣では、アンリ様が「ヨシ、ここから逆ハーが始まるぞ!」と小さく叫んでいました。……そうだったわ。アンリ様が、何かを頑張るようでした。私、それを見守るつもりで頑張って来ましたのよ!
「ねぇティア」
「はい」
「私、用事が有るから先に行くね!」
えええ! 残念。入学式が行われる講堂までご一緒したかったのに。仕方なくトボトボと歩き出したら、向こうからハーヴェイ様が歩いて来るのが見えました。知り合いを見つけて少しホッとします。ハーヴェイ様達は、学院生活最後の年ですが、1年はお会いする機会が有るわけです。ハーヴェイ様にご挨拶をしよう、と近付いて行きますと、どこからか先に向かわれたはずのアンリ様が飛び出して来ました。
えっ? どこからいらっしゃいましたの?
驚きました私ですが、ハーヴェイ様も驚かれたのか、立ち止まります。そのハーヴェイ様に、何故かアンリ様がぶつかるように向かっていきました。ええと? アンリ様? どうされました?
「あ、すみません。ちょっと目眩がして」
まぁ大変! アンリ様でも緊張で目眩がするのですわね! でも良かったですわ。ハーヴェイ様が目眩がしたアンリ様を抱き留められましたもの。「大丈夫ですか?」とご心配されていますわ。アンリ様が「はい」と頷きながら、ハーヴェイ様を見詰めていらっしゃいます。アンリ様の銀のお髪と夜明けを思わせる薄い紫の目が、ハーヴェイ様の金色の髪にグレーの目とお似合いですわー。まるで絵のようですわ!
私がウットリ眺めていると、アンリ様が弱々しく微笑まれて、立ち上がられました。儚げなその姿に、私は更にウットリします。アンリ様、やっぱり淑女教育をきちんと受けていらしたのね! 私がまだウットリしていますと、ハーヴェイ様がお声をかけて下さいました。
「ティア!」
「ハーヴェイ様。ごきげんよう。これから宜しくお願いします」
「待っていたよ」
「ありがとうございます。ハーヴェイ様、先程、見ておりましたわ。アンリ様を介抱されたところ。絵のようでとても美しかったですわー。お似合いでございました!」
私が言えば、ハーヴェイ様は久々に眉間に皺を寄せられて仰います。
「俺はティアの婚約者だ。ティアとお似合いになりたい」
それはどうでしょう? 私、闇を思わせる黒い髪に濃い紫の目ですもの。全体的に暗い色で地味ですわよ? ハーヴェイ様と並んだら、絵のようには……なりませんわー。
「無理ですわー。私のこの髪と目では、暗くてハーヴェイ様のお隣に居ても絵にはなりませんわ」
「何を言っている。俺はティアの髪も目も神秘的で美しくて好きだぞ」
初めて殿方から褒められた私は、柄にもなく真っ赤になっている気がしました。だって頬が熱いですもの。
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