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「真っ赤だな」
「気付かないで下さいませ。……殿方からこの髪と目を褒められたのは初めてで、どうしてよいのかわかりません」
「そうか。初めてか。ならば一生俺が言い続けよう」
ハーヴェイ様がご機嫌になったのか笑いながらそう仰る。あまりにも恥ずかしくなって、私は慌てて講堂へ向かいました。
入学して1ヶ月が経ち、アンリ様以外の友人も出来ました。移動教室の渡り廊下で、アンリ様をお見かけしました。私は友人達に先に行ってもらい、アンリ様にお声がけします。
「アンリ様?」
「ティア! 久しぶりね!」
「はい。会えて嬉しいですわ」
「私もよ」
「こちらで何をなさっていらっしゃいましたの?」
「これから、よ。ごめんね、ティア。ちょっと用事が有るの」
困ったようにアンリ様に微笑まれて、私は移動教室へ向かう事にしました。友人を困らせるのは、淑女のやる事では有りません。私が渡り終えたところで、殿下にお会いしました。学院で殿下が新入生歓迎のお言葉を述べた時にお見かけした以来です。
「ティア」
「殿下。ご無沙汰しております」
この数年で、私は殿下とアイオン様から愛称を呼ばれる事になってしまいました。
「ムゥロカでいい、と言っているだろう」
「恐れ多くて無理ですわ。それに、殿下のお名前を呼んで良いのは、王家の方とご友人とご婚約者様だけですわ」
「友人だろう?」
「恐れ多いですわ。それに女である私が殿下の名前を呼んでしまうと、周囲に誤解されますので」
「俺は構わん」
「お戯れを」
それきり、私は殿下に道を譲る。殿下の後を護衛の方が1人着いていらっしゃるのも、いつものこと。何とはなしに見送れば、アンリ様がなんだか廊下に座り込んでいるように見えました。
「そこの者、どうした?」
護衛の方が声をかけていらっしゃいますわ。アンリ様が何やら無くして探している、というお返事。まぁ! 私、アンリ様が探し物をしている事に気づきませんでした! ああ、なんて友達甲斐の無い人間なのでしょう。私も一緒に探したいわ! と思いましたが、殿下の護衛の方が探していらっしゃいますわ。直ぐに見つかったのか、アンリ様が、護衛の方と殿下にお礼を述べていますわ。
殿下の若葉を思わせる緑の髪と、アンリ様の銀の髪がお綺麗ですわー。開いている窓から風が吹いて、余計にお綺麗ですわ! 若葉に月が見え隠れしているみたい! 良いものを見ましたわー。私はウキウキして、移動教室へ向かいました。
またそれからしばらくして、授業で解らないところがあった私が図書室へ行きますと、銀の髪が見えました。アンリ様です。お声がけしようかと思いましたが、その向こうに晴れた空のような青い髪が見えました。あれはアイオン様です! 2人が隣同士で座っています。真昼の空に浮かぶ白い月のようで、お2人の姿も絵のようです。なんて素晴らしいのかしら!
私は邪魔にならない位置の机に座って、解らなかった内容の教科書を開いて、それに見合う参考書を探す事に致しました。そこへアンリ様の「ありがとうございました」という声が聞こえて来ました。それから去っていく後ろ姿。本当にアンリ様のお髪は美しいですわ! そんな事を思いながら、目当ての参考書を見つけると、席に戻った私は、アイオン様と目が合いました。
驚くアイオン様に礼をすれば、アイオン様が近付いて参ります。
「ティアは、勉強ですか?」
「はい。アイオン様。本日の授業で解らないところが有りましたので確認をしようか、と」
「どれですか?」
「これですわ」
「ああ、これなら……。良かったら僕が教えようか?」
「まぁ、常に首席のアイオン様に教えて頂けますなら有り難いですわ」
アイオン様は、親しくなるまでは一人称が“私”でしたが、親しくなったら“僕”と仰るようになりました。あまりこの一人称を人前では使わないそうです。私なんかがそれを知って良いのでしょうか。でも、アイオン様の教え方は上手くて、理解出来ました。
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