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寒くて白い
令和二年一月一日の朝、ぼくの部屋に初日の出の日差しが入る。その眩しい光がベッドの上で眠るぼくを安眠から解き放った。鉛のように重い双眸をゆっくりと開けて始めに見たものは僕の部屋だった。それは当たり前なのだが、激しい違和感を覚えた。
なんと、何もかもが白いのだ。ぼくの部屋に壁にかけられたお気に入りのプロサッカーチームのタペストリー、赤がイメージカラーなのだが、白く変色している。いつも枕元に置いてある漫画本の背表紙も緑を基調としているのだが、白く変色している。カーテンも桃色のチューリップ柄なのだが、白いチューリップの柄へと変色している。
このように列挙すればキリがないぐらいにぼくの目に映るものは全て白黒モノクロ映画と化していた。一体どうなっているのだろうか? ベッドの上で眠い目を擦っていると、部屋に母が入ってきた。母がいつも付けているエプロンは青いのだが、給食のおばさんの割烹着のように真白だった。エプロンを変えたのかな? と、思ったが、腹についたダルメシアンのアップリケ刺繍はいつもと変わらない。白地のエプロンにダルメシアンの刺繍は半紙にぶちまけた墨汁のようで見栄えがよろしくない。
「あら、おはよう。いつも休みの日は寝坊助さんなのに、起きてるなんて珍しいわね」
確かにぼくは休みの日は午後まで眠っている。朝食も昼飯と合わせてブランチ状態になっている。だが、今はそんなことはどうでもいい。目がどうかしてしまったことを伝えなければ。
「お母さん! 目がおかしくなっちゃった!」と、ぼくは叫ぶが母はそんなことはお構いなしにカーテンを開ける。
「今日もいい天気よ、ほら、いいお散歩日和よ」
「そんなのどうでもいいから! 目がおかしいんだよ! 白黒映画みたいにみえるんだよ! 新年から眼科って開いてるかなぁ!」
すると、母はぼくの両頬に手をやった。恥ずかしいからやめてくれよ。
「あなたの目も随分と白くなっちゃったわねぇ。一度お医者さんに行った方がいいかしら」
全く、新年から眼科行きとはついてない。下手をしたらお年玉の減額にも繋がりかねない。
本当についてない。
母はドアを開けたまま、一階のリビングへと向かって行った。ぼくの子供部屋には暖房が無いんだからドアぐらい締めといてくれればいいのに。廊下から風がひゅうひゅうと入り部屋の温度が下がるからやめてほしい。
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