寒くて白い

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 ぼくたちは日が照りながらも空気の冷えた道を歩いていた。特にアスファルトは氷のように冷たいし、細いマフラーも機能不全かと思うぐらいに仕事をしない。それでも不思議なことに体そのものは寒さを感じない。その道中、初詣に行くと思われる近所のおじさんやおばさんがぼくに向かって挨拶をする。登校中にすれ違っても挨拶しないくせに、今日だけは来る人来る人皆が挨拶をする。新年で気分が良いのだろうか。 すると、地元の氏神様を祀る神社の前を通りかかった。その神社、朱鴇色の鳥居なのだが、やっぱりぼくの目には真白い白鷺の鳥居にしか見えなかった。 「なぁ、初詣してこうぜ?」 「……」 親友はぼくの誘いを無視して神社の前を通りすぎる。鳥居の向こうは大勢の初詣客が本殿に向かって行列を作っていた。新年早々に並びたくないとは、案外こいつも人当たりを避けるタイプなのだろうか。 しばらく歩いていると、親友がぼくに尋ねてきた。 「なぁ、トイレいいのか?」 いちいちトイレ行くかどうかを聞くんじゃないよ。ぼくは返事をせずにそのまま歩き続けた。とは言え、今朝から一度も用を足してなかった。 「おう、コンビニで雉撃ってくるわ!」 ぼくは近くに見えたコンビニエンスストアに向かって走った。すると、親友は大慌てでぼくを引っ張った。 「駄目だって! お前はあそこ入れないの!」 「おいおい、コンビニトイレ有料になったのかよ。さすが不況」 「お前はいつもの場所があるだろ? 草むらとか……」 確かに草むらで用を足したことはある。しかし、幼少期の話だ。親友と二人並んで大きさを比べ合ったり、ミミズに面白半分でぶっかけたこともある。今はこんなガキみたいなことをする年齢(トシ)でもないだろうに。 今朝、何もかもが白く見えるようになってからみんながおかしい。色と言うのはなにかの感情で、それが欠落したから辺りが白く見えるモノクロの世界となり、みんなも何処かズレたことを言うようになってしまったのだろうか。もしかして、元旦の朝起きたら流行りの小説よろしく異世界に行ってしまったのだろうか。こんな冗談を考えていると、親友はガードレール前で足を止めた。そのガードレール前には色とりどりの菊の花束が手向けられており、その芳しい花の香りがぼくの鼻の中に入ってくる。  その瞬間、ぼくの頭に電流が走った。そう、ぼくは思い出したのだ、年が明ける前の十二月中旬にぼくはニエベと共にこの道を散歩していたことを。そして、その散歩中にクルマが突っ込んできたのである。それ以降は何があったか記憶にない、頭かなにかを打って病院で寝たきりで入院していたのだろう。おぼろげながらに病院と思われる白い部屋にいた記憶もうっすらとある。 ぼくは助かったのだろうが、ニエベはおそらく…… この多くの菊の花もニエベに手向けられたものだろう。ニエベはぼくの友達始め、ご町内の人間みんなに人気があった。散歩をする度にみんなぼくよりもニエベに挨拶をするぐらいだったんだ。これだけ愛されていたんだな…… ニエベ…… お兄ちゃんとしては嬉しいぞ。 ぼくは目に涙を溜めながら手を合わせ拝む親友の顔を眺めていた。その祈り閉じる目からは一条の涙が輝きを作っているのであった。
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