言えない

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「ねぇ、僕の事どう思ってるの?」 ( 直樹の部屋で2人きりで過ごすようになって、どのくらいだろう? なぜ、こんなわかりきってる事を問うのだろう。) ご飯を食べて片付けが終わりテレビを見て楽しく笑って、ゆっくりまったりしたいのに直樹は問う。 富士子は首を左に少し傾け直樹を見つめる。考える時には、なぜか頭が傾いてしまう。 「好きだよ。」 「好きなの?」 「はい。」 「はいじゃなくていいよ、うんで良いの。いつも言ってるでしょう。」 直樹はのけぞって笑いながら言った。 「 好きなだけなの?」 必死になって考えて出した答えに納得しないらしく直樹は綺麗な顔を富士子の方にグッと近付けて目を見開き低い声で優しく問う。 (ああ私はこの声が好きだ。この優しい話し方が好きだ。ずっと聞いていたい。ずっとささやいて欲しい。) 直樹は自分が美しい顔を持つ事を知っている。その顔を近づけて目を見つめながら何かをささやけば部屋に付いて来た女なら男でも、誰でも直樹は自分の思い通りにするのだろうと思いながら、 「大好きなの。」 と、富士子は答えた。 「大好きなだけ?子供みたいな事を言うね。」 ふっと鼻で笑い、たたみかけるように直樹は言う。直樹は富士子より5歳若い。 (他に何と言えばいい?喉まで来てるのに。 心で思ってる事をその通りに言っているのに。) 必死で考えを巡らせ頭はフルスロットルで直樹を見つめる。その時、直樹の目にさっきまでと違う光が灯る。欲望の光が差してギラギラした雄の目になった直樹が目の前にいる。 (私は今はしたく無いのに。いつも部屋でSEXばかりは嫌なのに。) 本当の気持ちを一度も口にした事が無い富士子は、どんどん近づけて来る直樹に言う。 「愛してる。」 ( えっ私、今、愛してると言った? 私、直樹の事を愛してるの?愛してるの? 私、直樹の事を愛してるのだろうか? 直樹はどうなの?) 「僕もだよ。」 と、言いながら獲物の首を獲るように富士子の頭の後ろに右手を当てて左手で富士子の肩を抱く。その間一秒も無い。 直樹の唇が富士子の唇をとらえて離さない。 (僕もって何? 今日はしたくない。一日中働いて疲れてるの。ご飯作って片付けたからお風呂に入りたい。そうお風呂に入ってない!)
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