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それで終わる訳は無くて、それは始まりの合図だ。
女性誌には全部に書いてあるし、モテると自慢の女の人達は口をそろえて言う。
「男の好きにさせてはいけない。焦らして手の届かない存在にならなければいけない。」
富士子はそんな事は出来無かった。無邪気に笑って誘いながら決して身体に触らせずに焦らして振り回すなんて一度も出来無かった。
駆け引きをして楽しんだり、思い通りにならずに困らせたり、ワガママを言って困らせたりしてあげる事が出来無かった。
そんな事が出来るのは愛されて育って自分に信じられないくらいに自信のある人だけだ。
富士子の周りには可愛くも美しくも優しくも賢くも無いのに自信だけはたっぷりとある女達がたくさんいた。
直樹のして欲しい事が何となくは、わかってたのに
ワガママや意地悪を言う事が一度も出来無かった。
「富士子はお嬢様なのにワガママひとつ言わないね。たまには言ってもいいのよ。」
直樹はそうして欲しかったのかもしれない。
自分の思いを押し付けて自分の考えの通りに行動した。
「私にはこうするしか出来無い。」
と。
素直で優しい自分の中で一番好きな自分を、好きな人に見て欲しかったから。一生付き合っていくつもりで行動していたから好きな人に尽くすしか出来無かった。富士子の心の鬼は決して許してはくれないだろう。最後の最後まで直樹の期待に応える事は出来無かったのだろうと思う。
彼を振り回してあげる事なんて出来無かった。
あの時ああしていれば良かった、こうすれば良かったなど株を動かす富士子にとって一番嫌いな考え方だが、なぜだかあの時の事を今でもはっきりと覚えていて、ついさっきの事のように思い出す。
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