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 私はまず、中山一郎の別れた妻から事情聴取をはじめた。元妻は、はじめのうちこそ口を(つぐ)んでいたが、離婚原因に質問が及ぶと、観念したのか中山一郎の裏の顔を証言しはじめた。 『黙っていた訳じゃないんです。元旦那が有名な事件の被害者だってだけでもこっちは迷惑しているのに、あんな恥ずかしいこと言える筈ないじゃないですか』  中山一郎には女癖が悪いという性癖があったのだ。それも、サディステックに女を支配する性質(たち)の悪い(たぐい)のものだった。その行動は高校時代から現れはじめ、度々問題を起こしていたが未成年者であることや示談で済まされ表ざたになることはなかった。大学生になると中山には、外聞を取り繕う巧妙な工作が顕著になる。外面(がいめん)の印象を高め、第三者のイメージが良い事を利用して第三者の判断が自分の有利になるように、周到に準備してゆくのだ。『あんな良い人が、信じられない。相手が嘘を言っているのでは?』といった、人間の心理を巧みに利用することに長けていった。  離婚の原因も、幾度となく教え子と関係を持った為であった。関係が発覚しても、生徒は中山に恋愛感情があると錯覚させられていた。中山は『生徒の気持ちに応えてしまった』『思いつめている生徒を救いたかった』などと物語を演出し、教育熱心が講じて間違いを犯してしまったのだと周囲に印象付け、父兄や学校への体面を取り繕っていた。  松本聖子の家庭環境を知る者ならば、二人が接近し関係を持つことになんら違和感はなかったという。  一人ひとりの知りえることは断片的であるが、証言を総合すると表面の真実の裏には、隠された裏の真実があったのである。
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