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 凶器はマフラーだった。  正月明け早々極寒の中、刑務所の事務所前駐車場に停めたクルマの中で、娘から贈られた手編みのマフラーに感謝しながら、私は首を縮めた。娘が巻いてくれた幾重もの毛糸の柔らかさが、私の凍える首筋の熱を保ってくれる。被害者が殺害されたのもまた、こんな極寒の日だったという。彼もまた、犯行の直前までは私と同じように、手編みのマフラーに感謝していたのだろうか。 「買ってきたよ! うぅ~外寒っ!」  勢いよくドアが開き、車内に冷気が一気に流れ込む。硬くなったシートのビニールが、滑り込んだ彼女を受け止め摩擦の悲鳴をあげた。 「サンキュウ。つまらないものですが、暖まらない暖房をどうぞお楽しみください」 「ほんと(あった)まらないよね~このクルマ。でも、(あった)かミルクティで生き返るよぉ。んじゃ、頂きます~」  まだまだ子供の顔を覗かせる、今年高校に入ったばかりの娘が、敷地外の自動販売機まで走って買ってきてくれた缶コーヒーで、私は凍てついた喉を潤す。  私は刑事だ。五年前私は、女が交際していた男性をマフラーを用い殺害した事件を担当していた。
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