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「お父さん、起きて! 来たよ。あの人でしょ?」  刑務所の職員に付き添われ事務所に姿を現した松本聖子は、収監された当時のままのように感じられた。白く整った、しかし生気を感じられない無表情の顔も変わってはいなかった。裁判長にしたように、お世話になった職員に礼儀正しくお辞儀をし、私たちに迎えられた。 「私のこと覚えていますか?」 「はい。刑事さん……」  親しく話し掛ける娘にも、下を向き小さく頷くだけだ。彼女の時間は、あの頃から何も変わってないように思える。   模範囚である松本聖子は、確定した刑期よりも早く出所することができた。私たちは彼女の身元引受人となり、しばらくは同居するになるだろう。彼女を取材するマスコミや、世間の好奇の目から彼女を守るためには、よい方法だと妻も賛成してくれた。  促され、クルマに乗った聖子は少し戸惑っているようでもあったが、それを表情に表さないのも昔のまま。ただ、女性らしく、町を行きかう成人式の若者たちの艶やかな装いを目で追っていた。それ以外は前方をじっと見据え、若者らしからぬ落ち着いた態度を見せている。
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