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「すみません。ここら辺に村上節子さんのお宅はありませんでしょうか?」
学校の帰り道、スーツの男性に話しかけられた。相手が男性だったので一瞬身構えたけど、後ろにいる少し疲れた感じの女性とその隣にいる男の子が目に入り、警戒心はなくなった。
「村上節子は私の祖母です。案内しますね」
私はにこやかに笑って、2人を家に連れて帰った。
「おばあちゃーん!お客さーん」
店の裏に回り、自宅の玄関からおばあちゃんを呼びながら上がると、奥からおばあちゃんがゆったりとした動作で顔を出す。
「お帰り絵梨ちゃん」
おばあちゃんは、いつも着ている派手な色のカーディガンとストレッチパンツ姿じゃなく、喪服のような黒く落ち着いた服を着ていた。そして、ゆったりと落ち着いた足取りで玄関まで歩いてきた。
「ただいま。お茶入れるねー」
「ありがとね」
おばあちゃんは穏やかに言ってお客さんの方に向き直る。完璧なよそ行きの顔。
私は制服のまま、お茶を入れて客間に運んだ。
「失礼します」
声をかけて襖を開くと、長机を挟んで座っているおばあちゃんと男性が私を見た。女性の方は私が入ってきたことにも気付いていないようで、お茶を出して初めて暗く沈んだ頭を上げて、小さくお礼を言ってくれた。その憔悴した様子に、胸が痛む。
女性の隣に寄り添うように立つ男の子も、女性を心配そうに見つめている。
大丈夫。絶対おばあちゃんが助けてくれるから。
私は男の子に心の中で語りかけ、静かに部屋を出た。
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