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「ねぇ、薫姉さん。俺達って、死んじゃうのかな……そんなの、嫌だな……」
それが、あの子の最後の言葉。
「もっと、いい人生が良かったな」
これが、あの子の口癖。
「あんなヘンタイ、カイシンしてくれれば良いのにな」
あれは、誰のだったか。
爽志はあの記憶を失くしている。人間は嫌な記憶は記憶の奥底に仕舞い込んでしまうらしいし、おかしな事は無いだろう。
「……僕は、諦めない」
自分に言い聞かせるように呟いていた子もいたな。薄暗くて、カビ臭かった地下室に閉じ込められて、寒くて泣いて。
気付いたら、外に出されて。
「寝ている子達は?」
大人達は首を振る。
どうして?
どうしてあの子達は出てこないの?
諦めないって言ってたのに。
死にたく無いって言ってたのに。
その日、こっそり大人の会話を聞いた。
「お気の毒にね。あの四人以外、全員死んでたわ?一応食べ物は与えられてたみたいだけど……」
「まぁ、あんな密閉された所ならな……」
「あの子達にはバレないように葬式をしてあげましょう。あの子達には耐えられないと思うから」
「ああ」
ヨニンイガイ?
ゼンインシンデイタ?
ソウシキ?
「あなた達、お名前は?」
「俺、爽志」
「翔だよ」
「……出雲」
「……貴女は?」
女の人は自分を見る。
「……薫……です」
「そう。薫さんね。……あなた達は兄弟よ?今まで通り、支え合って生きてくの。あ、そうだ。あなた達のお祖父様を紹介するわ。この村随一の巫覡、龍彦様よ」
コツコツと音がし、背の低い老人がこちらに来ている。
「わしが桐生 龍彦だ。舞子。ご苦労だった。爽志、薫、出雲、翔。屋敷に入りなさい」
アハハッ アハハハッ
「薫。お前になら、話してもいいかも知れないな」
爽志達が遊んでいる様子を眺めながら、縁側に座って話し出す。
「お前の父親は……わしの息子は、女誑しだった。何人も捕まえては……。清美は、それを自分のせいだと思い込み、心労で病気になって死んでしまった。お前の祖母だ。お前の母親は、この辺りでは有名な芸者だった。容姿も良く、聡明で茶や三味線の腕も良い、才女であった。……爽志の母親は、勇敢で活発な者だった。いつも明るく、みんなから頼りにされていたものだ。出雲の母親は落ち着いた、静かな女性だったな。翔の母親も、静かだった」
最初は、言っている事の意味が分からなかった。でも、一つ分かった事はある。
『自分達は、完全な兄弟じゃ無い。』
まぁでも、それはそれでいいかも知れない。これを、自分の秘密にしてあの子達は兄弟だと思って過ごせば良いから。
翔は奥の部屋に篭ったまま出て来ない。
爽志はむっつり黙り込み、お祖父様も何も言わなかった。
久々に見た翔の姿。
真っ先に目に入ったのは、黄金色の目だった。そして、顔のあざ。
「なんで……?」
「姉さんには関係ないよ」
そっぽを向いて翔は部屋に戻った。
「ずっと、好きでした!僕と……」
またこれ。
「ごめんなさいね。あなたとのお付き合いはできません」
もう、変化するのを見たくない。
自分の周りにあるもの、全て変わってしまった。
事実も
願いも
想いも
翔は姿が変わってしまった
爽志はやけに兄弟を心配するようになった
出雲は鷹狩りに夢中になった
私は……?
置いてけぼり
ガックリと肩を落とし、帰って行く彼を眺め、呟いた。
「全て、変わらなければ良いのにね……」
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