黒猫とマフラー

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黒猫とマフラー

 僕がまだ、小学校一年生であった頃のことだ。  僕は同年代の子供達と比べても相当なチビで、それこそ幼稚園児に間違われることもあるくらいだったのだが。だからこそ、他の子供達には気づかないものに気づくことも多かったのである。なんといっても視点が低い。壁の下の方の汚れとか、落書きとか。他の子や先生では知らないことをちょこちょこと知っていることも多かったのだ。  だからだろうか。そんな馬鹿なと大人達には笑われたが――幼い頃の僕には、“幽霊”に近いものが多く見えていた気がするのである。  正確にはそれが本当に“幽霊”と呼べるものであるのかどうかはわからない。なんせみんなに見えないのだから、それを正しく定義する言葉なんぞあるはずもない。幽霊、お化け、悪魔、妖怪。そこそこ児童書は好きだったので(おかげさまで、小学校低学年でありながら漢字だけは他の子より相当読めたように思う)言葉の数こそ知っていたものの、それでも思い当たるワードといったらその程度でしかないのだ。  足元をすり抜けて走っていく足が七本ある虫。  おじいちゃんの家の障子を、穴も開けずに通り過ぎていく謎の手足。  壁の上に座っているよくわからない目玉とか、木の実の代わりに生っている宝石のようにキラキラした石の塊だとか。  年上の親戚や親に言うと、信じて貰えないか馬鹿にされるかが常だったので、僕はそれらについて人に語ったことは殆どなかった。これだけはどうしても話しておいた方がいいのではないか――そう思ったのは、過去一度だけである。  当時の僕は、父方のおじいちゃんの家に行くたび、どうしても不思議でならないことがあった。  正確には、おじいちゃんの家の車が奇妙だったのである。  おじいちゃんの家にある、ちょっと年季が入った濃い緑みたいな色の自動車。そのマフラーの穴を覗くと、いつも金色の何かと眼が合ったのだ。  真っ黒な中に、ぽつんと二つ輝くもの。僕はすぐにそれが“いつも見える不思議なもの”であると気づいた。子供心に、こんな狭い穴に何かイキモノが入り込めるはずがないとわかったせいだ。何かのイキモノに近い姿をした、ナニカ。僕が覗くと向こうも気付くのか、時折瞬きらしきものをするのがわかる。  ある時、僕はおじいちゃんの家に行った時、そのマフラーの穴の中に手を突っ込んでみることにしたのだった。小さな僕の手なら、ギリギリ入らないこともないサイズだった。少し大きくなれば“そんな危ないことをするなんて!”と危機感の一つも覚えただろうが。生憎幼い子供に、そういう後先を考えられるだけの理性的な脳みそなんてまず備わっていないわけで。
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