こぼれ話 白羽の矢の行方

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「……それだけは、嫌だ……! ていうか、やっぱり今この場では皆認めてくれないってこと!?」  急に青ざめた太郎に、全員が頷き返した。 「だってあの土の頭領になるって言われたって……なぁ?」 「今すぐである必要も、やはりないですしね」 「諦めい。どうせ少なくとも藍ちゃんが高校卒業するまでは待つつもりなんだろう? それまでの間に栄術太郎様や十天狗社ともよーく話合って落としどころを決めろ」  ”落としどころ”と法起坊は言った。つまりは、太郎が宣言した内容のすべてが通ることはまず無理だと言い切られてしまった。  太郎としてはお山と自分の落としどころを見極めた名案だと思っていただけに、不満を禁じ得ない。 ――と、その時、集まっていた客間の襖が静かに開いた。その向こう側から顔を覗かせたのは、藍の母・優子だった。 「皆さん、お茶とお菓子なんていかがですか?」 「ああ、母君! 待ってました! 図々しいことは承知で、そう言わせてくだされ」  法起坊は大歓迎のムードで言った。そしてここぞとばかりに、太郎との話をぶった切ったのだった。  実のところ、皆、この話を終わらせられるのは優子だけだと思っていた。  優子が差し出すお茶を受けとりながら、皆安堵の表情を浮かべる様子が、太郎には面白くなかった。 「太郎さん、何か我儘を通そうとしているんですって?」 「え、ええ……まぁ」  一応、天狗達の間での事なので、人間である優子が知るのはあまりよろしくはない。優子はクスリと笑っていた。 「ごめんなさい、聞こえちゃって。でも藍ちゃんのためでもあるんでしょう?」 「は、はい……」 「だったら私は応援するわ。焦らなくても大丈夫だから、頑張って頂戴」 「……ありがとう、ございます……」  まさか、優子から応援を受けるとは想像だにしていなかった。  正直な所、最終的に優子をどう説き伏せようかと考えあぐねていたのだ。それが優子自身からの後押しがあった。  実際に頭領として認められるためには彼女の後ろ盾は向こうなのだが、不思議とここにいる面々から承諾されるよりも心強く感じたのだった。  照れたような喜んでいるような反応を見せる太郎をニコニコして見つめながら、優子はくるりと顔の向きを変えた。 「……で」  向いた先は、僧正坊だった。   「さっき何だか聞こえちゃったんだけれども、誰かが(・・・)、うちの娘の悪口を言ってくれていたわねぇ?」 「……え」
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