メリーグレイス、あるいはケモノの耳をもつ戦乙女

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 信一は脚の痛みを我慢しつつ、静かな線路沿いを歩き続けていた。  後始末を――頑張って見ないようにして――手伝い、トイレから出た直後に、メリーグレイスは崩れ落ちる様に眠ってしまったのだった。 「女子トイレには、一緒に行けないもんな……あれじゃ、強姦未遂か金欠カップルだよ」  メリーグレイスの服は、新品の春物に着替えが済んでいた。  だが、信一は首をかしげる。  自分が持っていた紙袋には、メリーグレイスが元々着ていた服をしまったハズだった。 「携帯があれば連絡出来たけど……まあ、明日でいいよな。バイト先で会うし。でも、アイツにまた助けられたか。ウチに泊まって……アレして……朝、帰る時にコンビニでパンツ買ってるところ見てなきゃココまで対処できなかったし」  遠目に、夜陰に浮かぶ駅が小さく見えてくる。 「これでやっと三駅目……残り五駅かぁ。まあ、いい運動になるよな」  ずり落ちるメリーグレイスを背負いなおすと、背中に当たる柔らかな感触に息をのむ。 「また、酔っ払いに絡まれなきゃいいな……思い出したら、なんか腹立ってきた。『姉ちゃん、いいケツしてるな』って、そんなの当たり前だ! 俺の一目惚れなんだぞ!」 「君たち、大丈夫かい」  信一は青ざめる。  振り返った視線の先に、無灯火のパトカーがいたからだ。
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