メリーグレイス、あるいはケモノの耳をもつ戦乙女

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 信一とメリーグレイスは、自宅マンションまでパトカーで送ってもらっていた。  パトカーを運転しているのは若い男性警察官で、助手席には中年の男性警察官が座っている。若い方の警察官は、後部座席に座る二人のことを、ルームミラーでしきりに観察していた。 「こんな美人に無理をさせるなんて、男として信じられないな……俺が面倒みようか?」 「あはは……それは、ちょっと」 「おい……お前には付き合いの長い彼女がいるだろ。つい先日婚約したって言ってたよな」  車体が揺れて、メリーグレイスがかぶっていた帽子が落ちる。信一は、冷静を装いつつ、落ちた帽子をかぶり直させた。 「おい! 赤だぞ‼」 「……あっ⁉」  若い警察官が急ブレーキを踏むと、パトカーは交差点のど真ん中で停車した。 「ったく、しっかりしろよ」 「す……すんません、先輩」  その後は何事もなく、マンション前で信一たちはおろしてもらった。  だが信一は、若い警察官に気味の悪さを感じていた。  それは、彼がルームミラーでこちらを見る際に、自分とは一度も目が合っていないと気が付いたからだった。
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