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再び時計を見ると、十一時半を過ぎていた。今日も帰ってくる見込みはなさそうだ。
睦紀は溜息を吐き出し、身体を起こす。どうにも落ち着かず、睦紀は自身の下腹部に触れた。一瞬の躊躇いの後、パジャマと下着を膝元まで下ろすと、半ば昂ぶった性器を握る。
「っ……」
目を閉じて緩慢な動きで性器を扱いていく。漏れそうになる声を奥歯でかみ殺し、先端から溢れた液を指に絡みつける。微かに漏れる吐息。濡れた音が静かな部屋に響き、耳につく。
サイドテーブルに置かれたティッシュを数枚手に取ると、先端に被せてそこに吐き出していく。まるで事務作業のようで、過ぎ去った快楽の後は虚しさが募る。
どちらともつかないため息を吐き出し、睦紀は汚れたティッシュをゴミ箱に捨てた。
喉の乾きを覚え、着衣の乱れを整えてから部屋を出る。階段を降り、キッチンへと向かう。身分不相応なほど広い家にも、さすがに一年も住めば慣れてはきていた。それでも神経は酷く使う。
「睦紀じゃないか。こんな時間まで何してるんだ」
水を飲んでいる睦紀の元に、義兄である春馬が驚いた顔で現れる。
今まで仕事だったのだろう。三つ揃いのスーツをきっちりと着こなし、寸分の隙も無い。
精悍な顔立ちからして一見すると硬い印象にも見えるが、接していると意外と気さくで優しい。
「ええ、涼華さんがまだ帰ってきていないので」
そう言いつつ、春馬の為に何か用意した方がいいだろうとグラスに手をかけると、春馬はそれを大丈夫と言って制した。
「あいつは昔からあんな感じだから、気にすることはない。睦紀は明日も仕事だろうし、早く寝た方が良いんじゃないのか。俺の方からも涼華には言っておく」
春馬の言葉に、睦紀は素直に頷く。結婚前から春馬とは、何度も顔を合わせていたこともあって、兄弟のいない睦紀にとっては本当の兄ができたと内心は嬉しくもあった。
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