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寝室の壁に掛けられた時計の針が十一時を過ぎ、篠山 睦紀は溜息を吐いた。
本来であれば、隣のベッドには妻がいるはずだ。だが、今は空っぽの状態で綺麗にベッドメーキングされて置かれているだけだった。
結婚してもうすぐ一年が経つというに、睦紀は数えるほどしか妻の涼華と寝室を共にしたことがない。
夫婦なのだからダブルでも良かったのだが義父である俊政いわく、睡眠は何よりも大切だから伸び伸びと寝た方がいいとのことで、ベッドは別々で用意されたのだ。涼華もそれに対しては了承していて、睦紀もそれならばと反対はしなかった。
俊政が言ったとおり、ベッドは別の方がいいという考えに反対しなくて良かったと、睦紀は少しだけホッとしていた。今でさえ一人でも充分に広いベッドなのに、これでダブルにしていたらもっと空しさを味わっていたことだろう。
やはり身の丈に合わない結婚だったのかと、睦紀は待つのを諦めてベッドに横たわる。試しにスマホの画面を見て見るも、涼華からは何の連絡も入っていなかった。
結婚当初は涼華の身を案じて、睦紀の方から連絡を入れたり、帰りが遅くなるようであれば連絡して欲しいと言っていた。それでも涼華の方は全く意に介した様子もなく、忙しいとか付き合いがあるからと、睦紀を面倒くさそうにあしらっていた。
本当だったら夫としてもっと、妻に詰め寄るべきであるのは分かっている。だが、自分は篠山グループの令嬢と結婚した身であった。婿養子としてこの家に入ったこともあり、立場的にどうしても下手に出てしまう節がある。
だからといって、いつまでもこの状況では、この結婚を薦めてくれた俊政にも申し訳が立たなかった。それに俊政は自分を救ってくれた恩人でもある。だからこそ、あまり心配をかけたくはない。
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