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2.ぬくぬくおねんね
「お兄さん、あのですね」
狐乃音は小さな女の子。そして、紛れもなく神様だ。
小学校の低学年か、あるいは未就学児と思われるような幼い外見。
ただちょっと、他の子と違うところ。それは可愛らしい狐のお耳と、ふさふさの尻尾があること。
普段の服装もちょっと変わっているところがある。清潔な白色と鮮やかな紅色の、巫女装束を着ているということ。
彼女は長いこと、とある大きなお屋敷のお庭にあった社に、稲荷神として祀られていたのだ。
けれど。ある日突然社を壊されてしまい、狐乃音は居場所を失ってしまった。
困り果て、散々町中をさ迷い続けたものだ。
そして、限界が訪れた。
路地裏にて。お腹がすきすぎて、遂に倒れてしまったのだ。
そんな、絶体絶命の大ピンチに手を差しのべて助けてくれたのが、このお兄さんなのだった。
「狐乃音ちゃん。どうしたの?」
「私、眠たくなってきちゃいました」
目を擦っている狐乃音。
今は夜。時計を見れば、もう十一時を回っていた。
「おっと。もうこんな時間か。寝ようかな」
狐乃音は助けられてから、お兄さんの家で暮らしていた。居候という立場にさせてもらったのだった。
「はい~。私も寝ます~」
狐乃音は優しいお兄さんのことが、大好きだった。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい~」
広々とした和室。畳の上に敷かれたふかふかのお布団で、狐乃音はぬくぬくとおねんねをする。すぐ横にはお兄さんがいるから、寂しくない。
けれど夜中になって、狐乃音は目を覚ました。
「うきゅ……。おしっこ……。いくのです……」
寝ぼけ眼を指でこしゅこしゅこすりながら、狐乃音はむくりと起き出した。
そしていそいそとトイレに行って用を足してから、再びお布団に入ったのだった。
「おやしゅみなさい……」
お布団の中はぽかぽか気持ちいい。目覚めたくなくなるほどに。
「うきゅ~……」
すやすやと気持ち良さそうに、狐乃音は眠りについた。
一方その頃。
「ん……」
狐乃音の隣で寝ているお兄さんは、夢を見ていた。
とても柔らかくて、ふわふわしたものに包まれている夢。
(何だろうこれ? すごく気持ちいいな)
まるで空を飛んでいるかのような心地よさ。何だろう。
(あれ?)
ふいに、どこかのお庭が見えた。
大きなお屋敷の中にある、とても広いお庭のようだ。
どうやら自分は今、元気な子供が駆け回って遊んでいるのを、嬉しそうに見守っているようだ。
違うな。これは自分ではないと、お兄さんは思った。
まるで、自分が他の誰かに乗り移ったような感覚だ。
(あれ?)
お兄さんはふと、目を覚ましていた。
「ん?」
布団の中に、違和感を覚える。
柔らかくて、ふさふさして、もふもふして、とても大きい何か。お兄さんはいつのまにかそれを抱き枕のようにして、抱きついていたようだった。
「狐乃音ちゃん?」
「く~」
きつね色のふさふさしたもの。それは、狐乃音の尻尾だった。
どうやら狐乃音は、トイレから戻ってきた拍子に、寝ぼけてお兄さんの布団に入ってしまったようだ。
「……」
ま、いいかとお兄さんは思って寝直した。
気持ちよく眠っている狐乃音を起こすのも可哀想だし、それに何より、狐乃音の尻尾を抱き枕にしてみたくなったのだった。ものすごく気持ち良かったから。
(わあ、すっごいもふもふだ)
もう一回、さっきのとろけるような感覚を味わいたいと、お兄さんは思った。
なので、狐乃音には悪いけれど、とりあえず気づかなかったふりをすることにしたのだった。
(あ~。ふわふわ~。可愛い~。気持ちいい~)
――そしてやがて朝がきて、狐乃音はお兄さんのお布団に入り込んで寝ていたことに気づいた。
「うっきゅうううっ! ご、ご、ごめんなさいいいいいいい!」
それは、真面目な狐乃音にとっては大失態。とてつもなく失礼なことをしてしまったと、必死に謝った。
もちろんお兄さんは怒るはずもなく、可愛い寝顔だったよと言いながら、狐乃音の頭をなでなでしてあげるのだった。
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