あるバケモノの出来事

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 これは俺の意思なのか、それともバケモノと化してしまった事による衝動なのか。  自らの意思に反して常人を超えた俊敏な身のこなしで兵士の銃撃を上下左右に避け、江戸時代の心を失った人斬りの如く右腕の触手で次々と兵士の身体を引き裂いていった。噴水のように血飛沫が舞い、兵士達の顔は恐怖に慄いていた。  そんな状況下でも、何故か俺は人間の身体をおつまみチーズの如く切り裂きながら過去の人間だった頃の楽しい記憶を思い出していた。  猛勉強の末に合格を勝ち取って入学した公立の名門である国立第一大学での学びと遊びの4年間……一流商社に入社して国内外を飛び回った忙しい日々……その中で充実していた主に渋谷区・港区・中央区での合コンや飲み会……そこで出会った女性は数知れず、中には数年間交際した人もいた……最後に会った女性はつい最近だろうか、黒髪で右の口元にホクロがある絵に描いたような美人で、公務員をしていると言っていた……あっ、そういえば来週って母さんの誕生日じゃん!!……結局感謝の言葉すら言えず親孝行出来ずに終わるのかなあ……。  ドカァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!  その大音響と共に、俺の視界が真っ暗になった。いや、身体の感覚も失った。  しばらくして、視界が戻った。赤い夕焼け空が視界全体に見えていた。  その後、斜め右上の方からスーツの上にボディアーマーを羽織った女性が姿を現した。  俺は、その女性の顔をよく見た。  ……なんでここにいるんだ……まさか……。  右の口元にホクロがある黒髪の女性の顔を最後に、視界は完全に真っ暗になった。
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