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「おうさま──ぼくのえほんにも、おうさまがかいてあるよ! でも、このひとのほうがかっこいい……」
「す、すみま……申し訳ございません」
父親は、親の顔で深々と頭を下げた。
「誉めてくれたんだよね、ありがとう──この絵のことも、かわいいって言ってくれて、ありがとう。私も、この絵がいちばん好きなんだ」
「うん、ぼくも──!」
「向こうに……」
大輝は、すっと片腕をのばし、向こうと言う方を指さした。
まるで、何百もの民衆を率いる様な雰囲気に、周囲の者もつられて、目を向けた。
「壁いっぱいに、同じ絵が映し出されている。その中に、いろんな動物が出て来たり、夜になって星が出て、流れ星がいくつも流れたりするんだ」
「ほんとう?!」
「高評価のプロジェクションマッピング…………面白いから、見てごらん」
「うん! おうさま、ありがとう!!」
「──おう、さま……?」
大輝は、唯央に優しく腕を回し、会場の進行方向と、逆の方へ歩き始めた。
西王が、プライベートで絵画鑑賞に来ているだけだ……そのことに気づいた者は、皆、王が指し示した方向へとそのまま進んで行った。
閉館時間となり、最後の客が会場から出た後……
あの、『黄色い絵』が映された巨大画面の前に、大輝と唯央は立っていた。
いまは、原始時代を思わせる生き物が、世界いっぱいに動き回り、輝いて、消えてゆくアニメーションだった。
「凄いね──僕が描いた絵だけど、僕が想像した以上のものを、クリエイターの人達が創ってくれた」
「……まぁ、素人が見ても、いい仕事なのだろうと思う」
「大輝様──あっ」
照明が落ち始め、空間ごと夕闇に包まれる。
いちばん星が煌めいて、優しく夜が訪れた時──奥の関係者扉から、美しい青年が現れた。
「涼君……! ──来てくれて、ありがとう!」
「唯央さん──大輝様……お久しぶり、です」
涼は、満天の星を背にして、頭を下げた。斜めに切り揃えられた黒髪を揺らして、上げた顔は──以前と変わらぬ美貌だった。
「ああ。……体調は、どうだ?」
「……だいぶ、回復しました」
「そうか──よく来てくれた。一緒に鑑賞しよう」
「はい」
涼は、大輝に敬意を表しつつも、唯央の隣に寄り添い、立った。
「お腹の子は……元気? 初めましてだね」
「……うん」
「僕のことは、どうか気にしないで」
涼は──一紀との間に出来た子供を、二度、失っていた。
妊娠はするのだが……腹の中で育たないのだ。
従兄弟同士であり、『公族』の男と『武族』Ωの間の子は──…
そもそも涼は、望まれずに生まれた存在だ。
そのことを憎み、一紀は事件を起こした。
そんな自分達の間の子供は──もしかしたら、この世に出てこない方が幸せなのかもしれない……
そんな風に、二人は話していた。
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