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しかし──もう十年も、そういうことをやってきて、孕むどころか、その機能が顕著化することはなかった。
Ωには当然の様にある発情期も起こらない。
大輝に求められるから……主従下にあるから、唯央も応じてきただけだ。
それだけの期間、やることはしてきたのだから、互いの間に子供ができないのは明白だった。
「αとβの間は、元々子供ができにくい。一般的に、β側の精神的なものが大きいと聞くが? おまえがそういう考えだから、できない。……つまり、望んでなかったのだろう?」
「そんな身の程知らずなこと、思えるわけがありません。僕は、ただのつまらないβなのに──」
「私が、ただのつまらないβを相手にしていたと、おまえが言うのか?」
「……っ。──西王家の翁様に、絵の才能を認めて頂いて、こちらに迎え入れてくださったことは、いくら感謝してもし足りません……」
だが、それを言うのだったら──続けて零れそうな言葉を、唯央は押し殺す。
「何か言いたそうだな。誤魔化さずに話せ」
この近さと間柄で、隠せるものではなかった。
「……僕はただ、唯一の特技と言えていた絵を、あのアトリエ寮で描いていられれば、それだけでよかったんです」
「本当なら、夕輝の傍で……だろう」
大輝の瞳に、昏い光が横たわっていた。
夕暮れの残照に黒い雲が覆い被さって、煌めきを隠してしまっているかの如く──βの両親から生まれ、育った島で、唯央はそんな光景を何度も見た記憶がある。
その景色から遠く離れてきたのは、兄と自分を産んだから早世した母親と、島の情景を素晴らしく描き切ってしまった自分自身のせい。
或いは、西王家主催の小学生絵画コンクールで、大輝の祖父である翁の目に留まったせい、か。
……それは本当に、感謝してもしきれないことだったのだろうか。
「夕輝の子なら、孕んでいたか?」
「わかりません」
瞬速で答えて、否定したつもりだが、首裏が、じわっと汗ばんだ。
興奮や緊張すると、そうなるとわかっている大輝は、唯央のそこに指を回した。
「正直だな。おまえのそういうところが、好ましい。……おまえは俺しか、男を知らないのに──夕輝に孕まされることを考えたら、こうなったのか」
「……っ」
顔までも熱くなり、額に汗が噴出する。
大輝が、自らを「俺」と呼ぶ時、彼はひどく性的に奔放になる。それへの条件反射もあった。
「……そう、です。僕は貴方しか……知りません。だって、それは……っ!」
突然、天蓋付きの褥の上に寝転がされた。
白い着物を纏った高貴な男が降りてくる。逃れられない、情欲の時間の始まりだ。
大輝を受け容れながら、唯央は、いちばん初めの時のことを思い出す──…
十五歳になれば──『武族』の男は成人だ。
自分の意志で、仕えるαを決められる。
本当なら、西王家・次男の夕輝に、仕えるつもり、だった。彼は祖父である翁に似て、芸術に造詣が深く、よく話も合った。
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